読書サイト更新 2022年に読んで印象に残った本。

 今年はたくさん読んだ(もうこんなに読める年はないんじゃないかと思いつつ読んだ)。ので、2019年以来で印象に残っている本をまとめてみようとエントリー書いてみた。くっそ長い。でもっていっぱい読むというのは忘却との戦いになるんだなと痛感した。
gkmond.blogspot.com

 エントリータイトルなんか浮かばんので省略。
 津原泰水が亡くなった。
www.kawade.co.jp
 10月2日のことらしい。
 早いとか遅いとかどうでもよくてただただ茫然となっている。
『蘆屋家の崩壊』で大笑いしつつ文章のうまさに舌を巻いたのはいつのことだっただろうか。
 あこぎなやり口に苦言を呈して出版社社長とバトルになった挙げ句、そこじゃ全然売れなかった本が別の出版社に移ってベストセラーになったのが昨日のことのようである。
 『ペニス』『11 eleven』『ブラバン』『赤い竪琴』『ルピナス探偵団』『たまさか人形堂ものがたり』『クロニクル・アラウンド・ザ・クロック』どれも面白かった。夢中で読んだし、夢中で読み過ぎて思いあまり、ご本人のバンドのライブを聴くために代々木のライブハウスまで出かけたこともあった。あれがただ一度のチャンスとわかっていたら図々しく「ファンです」とか言って話しかけていたかもしれない。創作講座だって冷やかしにしかならなくても覗いとけばよかったのかもしれない。
 いやもうほんとショックらしい。書かずにいられない気分でブログの画面立ちあげたのに、なあんも言葉が出てこない。酔っ払いのたわごとみてえだ。シラフなのに。一個だけ、ご本人の生前にはエゴサで補足されるのが怖くて書けなかったことを書いておこう。津原泰水はむっちゃ格好良かった。ビジュアル的にも意見表明スタンス的にも。自分にとっては作家のイデアみたいな人だった。R.I.P. 

価格をめぐる謎

 今から20年近く前、まだアマゾンで古書を買う習慣のなかった頃、古本屋に行っては100円コーナーで辻真先の本を買うということを繰り返していた時期があった。まだ80年代~90年代の新作ラッシュ時代の名残があったからか、割と店ごとにレパートリーが違っていて、出かけてはホクホクして帰ってきたものである。当時は新書版を持っていても文庫版があれば買う(この順番なら解説がつくのでまったく同じものではないから)、持ってるかどうかわからなかったらとりあえず買う(買わないとなくなっちゃうから)という方針で、ダブりも気にせずに買った。結果、たとえば『アリスの国の殺人(感想)』なんかは、ハードカバー2冊、文庫2冊の計4冊持っていたりする。最近出た新しいバージョンも欲しいのだけど、今では出版社のえり好み(ヘイト本主軸にしているかどうか)があって、徳間はおれの基準に引っ掛かってしまうのでスルーしようと思っている。古本で見つけたら買うかもしれない。
 まあ、それはともかく、そんなマイブームも落ち着き10数年とかが経ち、当然のごとく10数年分本は増える。当然のごとく部屋は大きくならない。となれば当然のごとく収納スペースの問題が深刻になってくる。この10年はキンドルがあるとはいえ、それでもすべてが電子で出ているわけではない。
 となれば、必然的に処分する本も出てくる。が、読み終わった本のうち詰まらなかったものを捨てる、みたいな基準では全然スペースが空かない(読み終えた本はたいてい面白いから読み終えるのだ)。
 で、次の案で読み終えたもので電子もあるものは電子に置き換えるが浮かぶ。目の前の棚にはずらりと並んだ辻作品。アマゾンが折良く値下げセールしたなかに講談社文庫の諸作があり、辻作品5点も半額になっている。ならば、ということでその5点購入して紙の文庫は処分した(全部古本だったので、この結果、5冊分の印税を著者に払えた。めでたい)。
 で、さらにスペースを取るべく、ダブった作品の状態の悪い方も処分していこうと本棚を見ていったところ、まずこんなのが出てきた。


 なんで下の部分色が違うんだろうなあと思ったら値段も違っていた。初版が88年度、2版が89年度だったので、消費税(3%)導入があいだにあった。結果、定価が変わり、ついでにカバーの色も変わったんだろう。こりゃ歴史史料みたいなものだから、両方取っておかねばなるまい。
 とか思いつつ、さらにダブってるのを探したら、すげえのが出てきた。すげえっていうか、タイトルに書いたように謎なやつにぶち当たった。
 それがこのツイートの写真である。
 
 どっちも同じ作品、どっちも初版本。なのに左側の定価が780円で右側は760円。よく見ればブックオフの値札の下にあるバーコードの下3桁の数字も違う(一枚目の写真の作品にはバーコードがなかったのに今気がついた。バーコードつくようになったのはいつからなんだろう)。
 こりゃいったいなんなんだろう?
 これがコーヒーとかであれば、店舗によって値段が違うこともあるから不思議じゃないが、書籍価格の地域差なんて聞いた覚えがない(まさかおれが知らなかっただけで当時は関東値段、関西値段、九州値段、北海道値段があったとか、ないよね?)。
 となると、考えられる理由として思いつくのは、780円のほうが、2刷以降のカバーでなんらかの理由で1刷の本体に被せられた(あるいは取り替えられた)くらいなのだけど、なぜそんなことを? と思うと答えが浮かばない。刷数が違っていても普通内容は同じだ。たとえば、760円の1刷と780円のX刷が並んでいたとして、X刷のほうを安く買うために表紙を取り替えるかといえば、そんなことはしないで1刷をレジに持っていくだろう。で、こういう手順を踏んでいないとすれば、この作品は最初から2種類の定価が存在したことになる。
 いったいおまえに何があったんだいと高いほうの本に語りかけてみたけれど答えはなかった。
 ダブりを気にせず集めていたときは、「バージョンの違いで面白い変化とか見つかるかもしれない」とちょっと思っていたものだったけど、まさかこんな謎が提出されることになるとは思わなかった。そもそもこれ、本来同じバージョンのはずだし……。
 いったいなんでこんなことになっているんだろう。
 不思議だったので記録しておくことにした。なんか知っている人(こう思うとかじゃなくて)いたら教えてくれると嬉しいな。
 

『徹底検証 日本の右傾化』電子版出てた。

 塚田穂高編著『徹底検証 日本の右傾化』の電子版がリリースされた。

 紙版を読み、非常に興味深かった(21本集められた論文の多くは力作だったし、並べる順番も考えられていた)。
 今読むという意味ではもちろん鈴木エイト「統一協会勝共産連合――その右派運動の歴史と現在」が必読。安倍晋三元首相銃撃事件以降報じられるようになった話の6~7割がすでに論じられていることには素直に驚いた。藤田庄一「創価学会公明党自民党『内棲』化」も知らないことがあれこれ書いてあって勉強になった。
 索引がないことだけが惜しいと思ったのだが、検索機能が使える電子版のリリースで問題は解決した。

 と思ってさっそくサンプルをダウンロードしたら竹中佳彦「有権者の『右傾化』を検証する」は電子版未収録と目次にあった。ついこないだ紙で読んだとき有権者は保守化しているわけではなく、安倍首相の支持率が高いのは経済政策への評価があるからであり、現時点で有権者の意識が「右傾化」していると断定できる証拠はないという趣旨の同論文は単体で見ると微妙な気分が残った(「だったらなんで現状こんななんだ」と思うからね。要するに知りたいことの入り口にきたところで話が終わった感じした)ものの、全体のなかにはめるピースとしては面白かったのでちょっと残念。
 この論文とその前の「自民党の右傾化」って論文の二つが導く結論は自民党有権者も言うほど「右傾化」を示しちゃいないというものだったりする。
 じゃあ、何が起きているの? という疑問が当然湧き、その疑問に答えていくのがそこからあとの諸論文という作りになっているので、問題提起パートに欠落が生じるのはもったいないなあ*1

 ということで論文数は一本減っている。が、値段は紙より1割くらい安い。そして検索機能がついた。
 筑摩のまわしものでも執筆陣の誰かの知り合いでもないけど、この本は現状必読文献だと確信しているので、それぞれの興味にあったバージョンを選んで読むのが吉だと思う。

*1:紙では残ってるってことは電子化に際してあまりにもあまりな条件提示で執筆者が飲めなかったってこと? とか、今みたいな状況で読まれるのが面白くないってこと? みたいな勘ぐりもしてしまうし

Directions to Servantsの訳語、今昔。

 ジョナサン・スウィフト『奴婢訓』が本棚から出てきたので薄いし読んでみっかとパラパラめくったところ、なんかヒロシのネタかってくらい、段落同士が独立していて、実態を知っていたら笑えるんだろうたぶんと思いつつ、今、日本で、これを読む意味は? となり、放り出すことにしたのだけども、目次を見ていたら、「別当」なる項目があり、いったいそりゃなんのこと? という疑問解消のためにいくつか検索、ついでに2015年の平凡社ライブラリー版なんかも覗いて訳語の比較なんかしてみた。せっかくやったので記録。
 まず、原文の目次は以下。

"Directions to the Butler"
"Directions to the Footman"
"Directions to the Coachman"
"Directions to the Groom"
"Directions to the House Steward and Land Steward"
"Directions to the Porter"
"Directions to the Chambermaid"
"Directions to the Waitingmaid"
"Directions to the Housemaid"
"Directions to the Dairymaid"
"Directions to the Children's Maid"
"Directions to the Nurse"
"Directions to the Laundress"
"Directions to the Housekeeper"
"Directions to the Tutoress, or Governess"

https://en.wikipedia.org/wiki/Directions_to_Servants

 で、おれがパラパラしていた岩波文庫の『奴婢訓』(深町弘三訳 1950年)(今入手できるバージョンはこちら)目次に並んだ訳語は以下。

・召使頭(バトラア)
・料理人(コック)
・従僕
・馭者
別当
・家屋並びに土地管理人
・玄関番
・小間使
・腰元
・女中
・乳搾り女
・子供附の女中
・乳母
・洗濯女
・女中頭
・家庭教師

 これに対して、平凡社ライブラリーの『召使心得(アマゾン)』(原田範行訳 2015年)の目次に並んだ訳語は以下。

・執事(バトラー)
・料理人(クック)
・従僕(フットマン)
・馭者(コーチマン)
・馬丁(グルーム)
・家屋管理人(ハウス・ステュワード)
・土地管理人(ランド・ステュワード)
・玄関番(ポーター)
・部屋係(チェインバー・メイド)
・侍女(ウェイティング・メイド)
・女中(ハウス・メイド)
・乳搾り女(デアリー・メイド)
・子供の世話係(チルドレンズ・メイド)
・乳母(ナース)
・洗濯女(ラウンドレス)
・女中頭(ハウス・キーパー)
・女家庭教師(ガヴァネス)

別当って馬丁のことなの? っつーことでコトバンク
kotobank.jp

 あった! ありましたよ!

⑬ (院の厩(うまや)の別当から転じて) 馬を飼育したり、乗馬の口取りをしたりする人。馬飼い。馬丁。

 1950年ごろは馬丁より別当のほうが通じやすかったのだろうか、それともちょっと古い感じを出したかったんだろうか。
 ただの記録なので、別にだからどうだということは特にない。

読書サイト更新『記者襲撃』

赤報隊事件」を扱った本なんだけど、今話題のあの団体の関与も疑われていたのは知らなかった。本筋の事件よりそっちに目が行ってしまった。
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読書サイト更新 『NHKと政治権力』

久々に読書感想文書いた。2001年の番組改編事件を当時の番組プロデューサーが語った本。2001年時点で安倍は安倍だったというか、そのとき安倍は安倍になったというべきか。いずれにしても2010年代を予告した出来事だった気がしてならない。

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