価格をめぐる謎

 今から20年近く前、まだアマゾンで古書を買う習慣のなかった頃、古本屋に行っては100円コーナーで辻真先の本を買うということを繰り返していた時期があった。まだ80年代~90年代の新作ラッシュ時代の名残があったからか、割と店ごとにレパートリーが違っていて、出かけてはホクホクして帰ってきたものである。当時は新書版を持っていても文庫版があれば買う(この順番なら解説がつくのでまったく同じものではないから)、持ってるかどうかわからなかったらとりあえず買う(買わないとなくなっちゃうから)という方針で、ダブりも気にせずに買った。結果、たとえば『アリスの国の殺人(感想)』なんかは、ハードカバー2冊、文庫2冊の計4冊持っていたりする。最近出た新しいバージョンも欲しいのだけど、今では出版社のえり好み(ヘイト本主軸にしているかどうか)があって、徳間はおれの基準に引っ掛かってしまうのでスルーしようと思っている。古本で見つけたら買うかもしれない。
 まあ、それはともかく、そんなマイブームも落ち着き10数年とかが経ち、当然のごとく10数年分本は増える。当然のごとく部屋は大きくならない。となれば当然のごとく収納スペースの問題が深刻になってくる。この10年はキンドルがあるとはいえ、それでもすべてが電子で出ているわけではない。
 となれば、必然的に処分する本も出てくる。が、読み終わった本のうち詰まらなかったものを捨てる、みたいな基準では全然スペースが空かない(読み終えた本はたいてい面白いから読み終えるのだ)。
 で、次の案で読み終えたもので電子もあるものは電子に置き換えるが浮かぶ。目の前の棚にはずらりと並んだ辻作品。アマゾンが折良く値下げセールしたなかに講談社文庫の諸作があり、辻作品5点も半額になっている。ならば、ということでその5点購入して紙の文庫は処分した(全部古本だったので、この結果、5冊分の印税を著者に払えた。めでたい)。
 で、さらにスペースを取るべく、ダブった作品の状態の悪い方も処分していこうと本棚を見ていったところ、まずこんなのが出てきた。


 なんで下の部分色が違うんだろうなあと思ったら値段も違っていた。初版が88年度、2版が89年度だったので、消費税(3%)導入があいだにあった。結果、定価が変わり、ついでにカバーの色も変わったんだろう。こりゃ歴史史料みたいなものだから、両方取っておかねばなるまい。
 とか思いつつ、さらにダブってるのを探したら、すげえのが出てきた。すげえっていうか、タイトルに書いたように謎なやつにぶち当たった。
 それがこのツイートの写真である。
 
 どっちも同じ作品、どっちも初版本。なのに左側の定価が780円で右側は760円。よく見ればブックオフの値札の下にあるバーコードの下3桁の数字も違う(一枚目の写真の作品にはバーコードがなかったのに今気がついた。バーコードつくようになったのはいつからなんだろう)。
 こりゃいったいなんなんだろう?
 これがコーヒーとかであれば、店舗によって値段が違うこともあるから不思議じゃないが、書籍価格の地域差なんて聞いた覚えがない(まさかおれが知らなかっただけで当時は関東値段、関西値段、九州値段、北海道値段があったとか、ないよね?)。
 となると、考えられる理由として思いつくのは、780円のほうが、2刷以降のカバーでなんらかの理由で1刷の本体に被せられた(あるいは取り替えられた)くらいなのだけど、なぜそんなことを? と思うと答えが浮かばない。刷数が違っていても普通内容は同じだ。たとえば、760円の1刷と780円のX刷が並んでいたとして、X刷のほうを安く買うために表紙を取り替えるかといえば、そんなことはしないで1刷をレジに持っていくだろう。で、こういう手順を踏んでいないとすれば、この作品は最初から2種類の定価が存在したことになる。
 いったいおまえに何があったんだいと高いほうの本に語りかけてみたけれど答えはなかった。
 ダブりを気にせず集めていたときは、「バージョンの違いで面白い変化とか見つかるかもしれない」とちょっと思っていたものだったけど、まさかこんな謎が提出されることになるとは思わなかった。そもそもこれ、本来同じバージョンのはずだし……。
 いったいなんでこんなことになっているんだろう。
 不思議だったので記録しておくことにした。なんか知っている人(こう思うとかじゃなくて)いたら教えてくれると嬉しいな。