『黄金の灰』

黄金の灰 (創元推理文庫)
柳 広司

4488463029
東京創元社 2006-11-30
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 著者のデビュー作。2001年刊行作品。主人公はハインリッヒ・シュリーマン(ウィキペディア)でトロイアの発掘エピソードの裏で起きていた殺人事件を描いたもののはずなんだけども、あんまり事件の印象は残らない。というのはムニャムニャ(←核心部分ネタバレ)であることが原因で、そんなことよりも著者が試みたことは歴史の隙間を考えるということなのだろう。つまり、なんでシュリーマントロイア遺跡を発見したの? そもそもなんでそんなことを? という受け入れてしまえば疑問に思わないようなところへの疑問から物語は生まれている。それを書くのに選ばれたのが殺人事件という意匠だったという感じで、事件と直接関係しないところに大変ワクワクして、メインストーリー自体もあれこれの伏線とその回収は手際良くされているので、普通に楽しめる作品に仕上がっているけれど、存分に語られなかった部分こそがより気になってしまう、話は終わっているのに、読み終えた気がしない、そんな読後感が残った。