長篇 異界活人事件

バカミスじゃない!?―史上空前のバカミス・アンソロジー
辻 真先 山口 雅也 北原 尚彦

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 アンソロジーバカミスじゃない!?」に収録された短篇。長篇というタイトルにもかかわらず短編。どうしてかは読んで確認してもらいたいところだが、もしも収録された作家陣に興味がなければスルーしていいのではないかと思う。少なくとも本作目当てで買う必要はない。
 本作が再録作品であるならまだしも、書き下ろしであるところが痛い。個人的な感覚では、本作品の会話やノリは三十年前のものだ。昔の辻作品であるなら、当時の風俗資料として読むことが可能だけれども、この作品はそれも不可能*1。小さい方のトリック(というか因果関係)は結構良くできていて、アイディアマンとしての辻真先は健在だと思ったが、表現の仕方に現代性が希薄なのが残念だ。純文学であるなら、これも渋みとか熟練とか言ってごまかせる部分もあるだろうけど、時代の先端を取り込むというスタイルでやってきた以上、この作品の出来は厳しい。
 もともと短編の上手い作家ではないし、バカミスっつー縛りに変に力んでしまったのと、もともと長所でもあろ短所でもある過剰なサーヴィス精神が融合した結果の失敗作だと感じた。
 著者プロフィールに例の「完全恋愛」(マガジンハウスから出るらしい)がクレジットされていたので、そっちに期待したい。ただ舞台が現代だったら辛いかもしれないと思った。本作で一番古さを感じたのが、大学教授とその恋人とのやりとりだったからだ。なぜ辻先生は現代を書くことにこんなにこだわるのか、不思議にさえなってくる。こんなことを言うのは失礼だと思うが、新しいものをどん欲に取り込み続けてきた先生であればこそ、「新しければ良いというものではない」というモチーフを書くべきではないか。キャラクターの台詞としてではなくて、作品自体に込められたメッセージとして。
 それと作者名が辻眞先になっていたのだけど、表記を変えたのだろうか。
2009.08.17追記:
文庫版はこちら。
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*1:ケータイ小説が流行っていたんだね、くらいなら可能だけど