『小説どろろ』

小説 どろろ (ヤングシリーズ)
手塚 治虫 辻 真先 北野 英明

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 正直まったく見ようと思えない映画「どろろ」(昨日から上映が始まったらしい)であるが、絶対に読めないと思っていた本書を復刻してくれたという功績は認めざるを得ない。
 1969年、サンヤングシリーズ*1の一冊として出版された本書は、著者あとがきによれば、辻真先の長編第二作目*2にあたり、また手塚治虫作品では初めてのノベライズでもあった。初版の値段は390円。復刻版は1300円。
 作者も言っているように、本作は例えば「小説!? Dr.スランプ」(感想)などと較べると、かなり原作に忠実な作品に仕上がっている。にもかかわらず、原作に裏切られるような目にあってしまったのは、作者あとがきにも書かれているし、著者のホームページにも記事が載っている。
 と、ここまで書いたところで、どれくらい原作に忠実なのか確かめるため、漫画版「どろろ」を引っ張り出して読み返してみた。
どろろ (1)
手塚 治虫

どろろ (1)
どろろ (2) どろろ (4) どろろ (3) どろろ (第3巻) 罪と罰
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 そうか、原作は運命に立ち向かう*3ってのがテーマだったんだな。
 原作と比較した場合、時代が室町に設定されているところや、百鬼丸が可能な限り人を殺さないところなどが、辻真先版のオリジナリティだろうか。原作の百鬼丸は妖怪よりも人間の方を大量に殺している。それから原作よりも、より救いのある話に変更されている。例えば原作では最後どろろと百鬼丸は袂を別ってしまうが、小説版では百鬼丸どろろとともに旅をしていく決意をして大団円を迎える。
 また原作では出てきてすぐに死んでしまう百鬼丸の弟、多宝丸だが、小説版ではなかなか味のあるツンデレ風弟キャラクターに生まれ変わっている。怪我をして百鬼丸に手当をしてもらうところはこんな感じ。

「薬をとりかえたらどうだ、多宝丸。」
「よけいな指図をせんでもらおう。きさまはあのちびをさがせばいいんだ。」
どろろのことか。」
 言葉の調子が変わったのを、多宝丸は、いちはやくかぎつけた。

「放っておいてよ!百鬼丸はさっさとどろろを捜せばいいじゃない!」と言ってるようにしか思えない。
 ちなみに小説版多宝丸はツンデレなので、こっそり兄を心配して、あとから助けに出かけたりする。
 全体に原作に較べると甘い味付けになっているのは間違いない。それが良いのか悪いのかは置いておいて、確かにこれは「どろろ」の設定で辻真先が書いたらどんな話になるか、という問いへの答えになっているとは言えると思う。
 それと百鬼丸の義足が重いという描写があって、なるほど考えてみれば木でできているのだから、それなりの重さがあるはずだなと思った。原作版では本物の身体とそうでないのと絵から質感の変化があまり読み取れないので、むしろ人工の身体という設定への理解は小説版の方が深いのかもしれない*4
 個人的には原作の浅ましい人々の姿と救いのなさに惹かれるが、本作は本作で個性を持った作品にしっかりしあがっていると思う。
 ところで映画版の主題歌「FAKE」は悪くないと思う。
http://youtube.com/watch?v=VaJGceMEZAA

追記2015/05/30
オリジナルのほうの『どろろ』、文庫全集版がキンドル化していた。全二巻みたい。
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それとは別のバージョンもあるのだった、そういえば。これもキンドル版。確認時の価格は1巻2巻が270円、3巻4巻が300円。
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*1:シリーズ作品には必ず「○○ヤング」という角書きが附されている。「妖怪博士」なら「怪奇ヤング」「ブンとフン」には「1億ゲバヤング」、「北北東を追跡せよ」は「地球壊滅ヤング」、「地底怪生物マントラ」は「地球SOSヤング」といった具合。ちなみに「小説どろろ」は「戦乱妖怪ヤング」である。

*2:第一作は「小説 佐武と市捕物控

*3:どろろは背中に宝の地図が彫られていて、百鬼丸は身体の四十八箇所が奪われたという設定になっている。ふたりともそれによって自分が択んだわけでもない人生を歩まされることになる。その境遇をどう乗り越えていくかが物語を進める原動力になっている。

*4:原作版でのこの設定は身体にしこまれた武器(009の影響か?)の面白さと、主人公が立ち向かわなければならに運命というもののビジュアル化のためのアイディアであるように見える。