The ABC Murders (Hercule Poirot)
Agatha Christie 
Harper 2001-06-04
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澤田治美の「モダリティ」（amazon）という本を読んでいたら、やたらにクリスティから例文が出されていて、読み終わる頃にはどうしてもクリスティが読みたくなっていた。ということで、読んでみたのがこれ。1936年の作品。
ウィキペディアから引いたあらすじはこんな感じ*1
南米からイギリスへと戻ってきたヘイスティングズは久々に再会したポアロに一通の手紙を見せられる。最後に「ABC」と署名されたそれは21日にアンドーヴァーという町で何かが起こることをほのめかすポアロへの挑戦状とでもいうべきものであり、ヘイスティングズやジャップはいたずらの類だと考えたがポアロは心配する。
警告の日の翌日、ジャップからアンドーヴァーでアッシャーという老女が殺されたと電話で聞かされた二人はアンドーヴァーへと出向く。二人は出迎えてくれた警部に事件の概要を聞き、その後容疑者である被害者の夫の話も聞く。そして二人は老女の死体の傍にはABC鉄道案内があったと警部から聞かされる。
その後もポアロのもとにはABCから犯行を予告する手紙が届き、その度に実際に殺人は起きてしまう。Bの都市ではBが頭文字の人物が殺されCの都市ではCが頭文字の人物が殺される。そしてやはり死体の傍にはABC鉄道案内が置かれていた。果たしてABCとは誰なのか、そして動機は何なのか?
そして、Dの都市では・・・・。
ABC殺人事件 - Wikipedia
大ネタ自体はどこかで聞いていたので、楽しめるだろうかと思っていたのだけど、事件と関係ない細部、とくにポワロとヘイスティングスの会話が楽しすぎる。ハゲを気にするヘイスティングスにポワロがそれとなくアドバイスしようとして、怒らせてしまうところとか、ヘイスティングスが荷造りするのをポワロが止めるところとかで、かなり笑った。しかしワトソン役が読者代表であるということなら、冒頭に出て来た「犯罪が料理だとして、どんな料理がご所望か？」という質問に、「毒だろ、深夜の銃声だろ、ひとりかふたり美女が出て来て、彼女は、もちろんゆえなく疑いを掛けられるんだよ。それから彼女と若い男のあいだにすれ違いがあってさ、」云々と喜々として答えるヘイスティングスに、ポワロが向ける呆れた視線は作者クリスティの読者へと向ける視線にも重なるのだろう。「アクロイド殺し」を読んだときに、クリスティはおばちゃんが嫌いなんじゃないだろうかと思ったのを覚えているのだけど、そもそも人間が嫌いというか、人の嫌なところに目がいく人だったのかもしれないという印象を持った。
最初の事件が起きたとき、ヘイスティングスの感想は、ある理由によって「つまんねー事件だな」だったりするのも、またたまらない。
もちろんそれだけではこんなに売れ続けるはずもなく、こんな俗物に呆れつつも、ポワロはヘイスティングスの一言をヒントに事件を解いてしまう。言ってみれば、それは名探偵が俗物の喜ぶストーリーに妥協しているということで、軽蔑してやまない読者＝ヘイスティングスの見方をポワロが取り入れて推理を完成させるところに、読まれ続ける理由はあるのかもしれない、というのはいま思いついた与太。
すごく気に入ったやりとり
'She was pretty, yes?' inquired Poirot.
Miss Merrion, in her turn, gave him an 'Oh, these forerigners'look.
本筋と関係ないところで散々愉快な気分になったけれども、最後の謎解きもやはり魅力的で、大筋は知っていたにもかかわらず、ああなるほどねえと感心させられた。
ポツポツ他の作品も読んでいこうと思う。
ところで、読んでいて気になったことがあって、ポワロはやたらとフランス語のフレーズを使う。それが胡散臭い外人テイストを醸し出しているのだと思うのだが、このシリーズが仏訳されたとき、ポワロのフランス語の扱いはどうなってしまうんだろう？
おまけ：amazonによれば日本語訳はこれだけ出ているらしい。
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ヒットしたのは他にもあったのだが、訳者が銘記されていないのは、もしかしたら日本語じゃないかもと思い、はずしておいた。それにしても、色々なバージョンが出ているなあ。
*1:ところで、同項目には「原題：The A.B.C. Murders」と書かれているのだが、手元の本にはピリオドはない。どうでもいいけれど。
