Joseph Campbell Myths to Live by

 スター・ウォーズの作劇にも影響を与えた神話学の泰斗が、50年代から70年代にかけて行った講演をもとにした本。比較神話学・比較宗教学の観点からあれこれのトピックを分析したり、神話入門的な話があったりと内容は雑多。
 目次はこんな感じ。

Foreword Johnson E. Fairchild
Preface
The Impact of Science on Myth
The Emergence of Mankind
The Importance of Rites
The Separation of East and West
The Confrontation of East and West in Religion
The Inspiration of Oriental Art
Zen
The Mythology of Love
Mythologies of War and Peace
Schizophrenia---the Inward Journey
The Moon Walk---the Outward Journey
Envoy: No More Horizons
Reference Notes
Index

 日本では「キャンベル選集〈2〉生きるよすがとしての神話」というタイトルで1996年に刊行されている。
 俺がはじめてキャンベルに接したのは高校時代ではなかったかと思う。よく憶えていないのだが、NHK教育かBS-2かで「神話の力」という番組をやっていた。それまで神話なんてかけらも興味がなく、ただの昔話だと思っていた。だからなんだってその番組でじいさんが語るのをあんなに熱心に見続けたのか、よくわからない。ひょっとすると吹き替えの声優が良かったのかもしれない。
 で、大学生になってからキャンベルの本はないものかと探してみたら、折良く「キャンベル選集」が出はじめたので、一巻の「時を越える神話」は買った。しかしあまりピンと来ない。おまけに高い(2000円くらいした)ので、「生きるよすがとしての神話」から後ろは買わなかった。まあそのうち読もうとか思ううち、ずるずると時は過ぎ、キャンベルはずっと気になる存在であり続け、しかし読まないという状態が続いた。つぎにキャンベルの著書を読んだのは、卒論を書くときに、くだんのテレビ番組の書籍版を参照したときのことで、やっぱり面白かったから、他のも読もうと図書館で「千の顔を持つ英雄」を借り出したんだけど、字組を受け付けなくて読めなかった。で「神の仮面」も似たような事態で挫折。
 テレビはあんなに面白かったのに、これはいったい……もしかして翻訳との相性が悪いんじゃね? と気付いたのが五年くらい前。本当に翻訳との相性が悪かったのかどうかはわからないが、あんな夢中になった番組の著者が書いた本が詰まらないとはどうしても思えず、なかば意固地になって、いつか原書で読んでみたいと考え続けていた。そんでもってとうとう一冊読み終わった。テレビ番組見てから考えると14、5年? 長かったもんである。って、これは感想じゃなくて感慨だ。
 内容は半世紀前から30年くらい前までのものなので、当然色々突っ込みどころが発見されているんだろうなとは思うものの、たとえばケネディ暗殺の印象をリアルタイムで語るくだりに「あの事件まで休日にアメリカ国旗を掲げることはわりに恥ずかしいことだったけど、あの事件を境に我々は国との結びつきを強めた。アメリカ人はケネディの葬儀を、まさに神話的な儀式として体験したのだ」って分析(The Importance of Rites )とか、アポロ11号の月面着陸(The Moon Walk---the Outward Journey )やLSDへの言及、インド神話の紹介などに、当時ならではの高揚感や未来に対する希望が満ちていて、やっぱりこのおっさん好きだわあと思った。
 AMAZONのレビューは何やら批判的なんだけど、宇宙時代の幕開けと呼ばれた時代に、あちこちの神話を「すべては人間の深部からすくいあげられたものの変奏」と言っているのは、対立を無効化する布石でもあり、希望の一手でもあったのだろう。残念ながらその後、歴史は神話や宗教的対立の無効化へと向かわず、キャンベルの夢見た段階まではまだまだ長い道のりがかかりそうではあるけれど、個人的には致命的欠陥ではなくて、そここそが魅力なのだと言いたい。

Myths to Live by
Joseph Campbell

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