マイケル・ジャクソンTHIS IS IT

見てきた。
http://www.youtube.com/watch?v=O4Z3jHx3leo:MOVIE
 109シネマズだとIMAXで見られるというので、川崎の109へ行くことにし、東京ドーム公演を一緒に行った友人を誘い出かける。三時半段階で四時半のチケットが売り切れ。七時の回を待つ。海外の1アーティストが亡くなり、お蔵出し映像が全国ロードショーってのも、考えてみたらすげえ話なのに、当たり前のように人が入っているのは驚くべきことだ。もちろん亡くなった直後であるという文脈のなせるわざなんだろうけれど、文脈が発生することがそもそもって話で。

 で、中味。ファンに夢を与えることがマイケル・ジャクソンの目的であり、その前提にマイケル・ジャクソン本人の全盛期と比較しても完璧なパフォーマンスを遂行する必要があるというのが、マイケル・ジャクソン本人の考えだとしたら、この映画の公開はマイケル・ジャクソン本人には絶対なしだろうなというのが率直なところ。これからいくらでも出てきそうな、本人的に不本意な楽曲の発売の第一弾がこのリハーサル映像の公開だろう。無精ヒゲを生やした顔、老いが隠れないメーキャップ、何より露骨に老人を示している手の甲。最新式のイヤー・スピーカーには対応できずにぼやいてみせる。ビート・イットで不良グループの対立に割ってはいるところは、完全に夜回り先生か何かだった。歌や踊りに至っては、全力尽くしてもどこまで戻せたかわからないのに、リハーサルなのだから、たとえばビリー・ジーンのこんな映像

 との比較は成り立たない*1。こりゃあ公開されたくはなかったろうなあと、何度かしみじみと思わされた。

 んじゃこれは、趣味の悪い、投じた資金の回収番組なのかっつーと、俺個人の印象ではそうではない。これは編集の腕だなあと思う。
 オープニング直後に、バックダンサーのオーディション参加者たちへのインタビューが収められている。曰く「今朝このオーディションのことを知って飛行機に飛び乗った*2」、「朝起きると、飯を食う前にマイケルの曲で踊り、ムーンウォークをするんだ」「ぼくはマイケルにインスパイアされた。今度はぼくがみんなに夢を与える番だ」「世の中辛いことが多いだろ。だから何か、信じられるものが欲しいんだ。これがそれなんだ(This is it)」
 ここで見てる人間の視点が決められる。その視点ってのは、幼い頃、マイケルの姿に夢を見て、そしていま、マイケルの後ろで踊るチャンスを掴んだ人たちの視点だ。スムース・クリミナルのPVに出てくるテンション上がって踊っちゃう子供。世界中にいたあの子たちが、大きくなった姿こそ、本作が設定した視点なのである。

 だからオープニングのWanna Be Startin' Somethin' の映像は、前から映しているにもかかわらず、マイケル・ジャクソンの背中が見えるような気がした。ダンサーたちが憧れのマイケル・ジャクソンを前にして、どこまでできるのか、それぞれにチャレンジしているような気がした。
「どうだマイケル、あんたに夢を見た俺(たち)は、ここまでできるようになったぜ」
 リハーサルという、観客不在のシチュエーションのせいだろう、俺はこんなメッセージをダンサーたちがマイケル・ジャクソンに向けて発しているように見えてならず、なんだかジンとなった。マイケル・ジャクソンの意図とはまったく違うだろうとは思うけど、これはこれで見る者に夢を与える話なんじゃなかろうか、という気がした。そのおかげで、これが趣味の悪い映画だとは思わずにすんだわけ。だって夢を与えるんだって歌った男の所に夢を与えられましたって子供たちが大挙して押し寄せてきたって話じゃん、これ(っつーか、マイケル・ジャクソンの後期ライブは全部そうだったのかもしれない)。それはやっぱりひとつの夢物語だと思うんだよね。

 他にブラック・オア・ホワイトのギター・ソロパートで、ギタリストがマイケルに励まされながら一生懸命高音を鳴らすところがあって、カメラが弦を押さえる左手に寄っていく。マイケルが横から「がんばれ。そばにいてあげるから」とか言って、ギタリストは「そんなに?」ってくらい弦を押さえて高音へ高音へと上っていく。あそこも良かったなあ。

 そして、実物のマイケル・ジャクソンの後ろで踊ったり、コーラスしたりってのが、どんな体験なんだろうなあって、そんなことばっかり考えた。目の前に伝説が降臨しているって体験は、たぶんその場に立たなければ理解不能なことだろうから、想像しても及ばないことだろうけどさ。

 それから、本当にバカみたいな感想になるんだけど、何回かマイケル・ジャクソンがアカペラで歌うところがあって、なんとまあ俺と来たら「うわ、歌うまい」とか思った。当たり前だっつーの。声が高いのはもちろん知っていたんだけど、バックがない、ごまかしきかないところで歌ってもやっぱり上手いんだなあとか感じた。これが生だったらもっとビリビリ来たんだろうなあと思うと、本番がなかったのが惜しまれる(どこまでやれたのかはわからないけどさ)。

 あんまりうまくまとまらないんだけど、っつーか、このエントリ書くために無理して言葉をひっぱりだしているところがあって、映画が終わってから友達と感想らしきものを交換しているあいだも「そうじゃねえな」と思い続けていたので、もしかするとこの映画は核心も突けない感想めいた駄文を連ねるよりも、言葉にならない気分みたいなものを抱きしめておくのが、正しい受け止め方かもしれない。うかつにテンプレに落とし込むと、まったく違うものとして記憶されそうな気もする。
 しばらくは、このよくわからない気分をそのまま保留しておこうかなと思う。

追記20103007
 もはや旧聞に属することだけど、3バージョンでソフト化されたので一応紹介しておく。
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 ところで、映画を見たあと、友人と期間限定リバイバルムーンウォーカーを見に行った。昔見たときは詰まらないと思ったものだったが、いま見ると面白いとか詰まらないとかを超越した何かであったことがよくわかった。

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 その帰り道に「The Essential Michael Jackson」という二枚組ベストアルバムを買った。Amazonのレビューによれば、3バージョンあるらしいが、俺が買ったのはアメリカ版。その日から今日に至るまでiPodヘビーローテーションしている。
The Essential Michael Jackson
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 で、上の記事のギタリストはオリアンティという人で、このあと「ビリーヴ」ってCDが出た。CMも結構かかっていたみたいなので、知っている人も多いかも。

 この曲とか格好いいと思う。

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*1:つまりこの映像から衰えたと言われたら、そりゃあ可哀想だよって話ね。で、どこまで全力だったかはわからないけれど、年齢とブランク期間を考えるなら、おかしいくらい動いていたよ。マイケル・ジャクソンじゃなかったら、いまだ衰えずって言われただろうってくらい。

*2:この人はオーストラリアの人だ