D・M・ディヴァイン 野中千恵子訳『兄の殺人者』

 兄貴がいつも通り夜中近くに電話掛けてきて、「今すぐ事務所に来てくれ」とか言って、電話切りやがったから、しぶしぶ霧の中事務所まで行ったら、こんな時間だってのに誰だか出て行く気配とかして妙だなあと思いながら兄貴のところへ行くと、なんだよ、兄貴、死んでんじゃん! というオープニングで幕を開ける推理劇。クリスティー絶賛と帯にあったのだけれども、読み終えるとなるほどと思えた。よくできてる。これより複雑なプロットを持つ話も、これより緻密なロジックを展開させる話もあるに違いない。本書の強みは、読者の踊らせ方をよく知っているところにある。ネタバレしないためにこれ以上は言えないのが辛いところだけど、俺は読み終えたあと、最初から読みなおした。再読までのタイムラグ、二秒。自己最短記録。再読すること自体が珍しいので、たぶんもう更新されることはないだろう。二度読みすると、なるほどなあと思うところが増えて、また面白かった。犯人もトリックもわかってるのにだ。
 すごい興奮したい人よりも安心してお話を追いかけたい人向け。いや楽しかった。

兄の殺人者 (創元推理文庫)
D・M・ディヴァイン 野中 千恵子

4488240062
東京創元社 2010-05-22
売り上げランキング : 283226

Amazonで詳しく見る
by G-Tools