渡邉二郎『芸術の哲学』

芸術の哲学 (ちくま学芸文庫)
渡辺 二郎

4480084266
筑摩書房 1998-06
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本書では、西洋の大きな哲学者と思想家の芸術論を引き合いに出し、その論述を顧みるという形で、考察を勧めてみた。私が本書で考察したのは、主としてアリストテレスニーチェハイデッガー、ガダマー、フロイトユングショーペンハウアー、カントの芸術論である。私は、できるだけ正確にまた一貫した形で、それらの芸術論を解釈して示すよう、努力してみた。それがどれ程まで成功しているかどうかは、読者のご判断を俟(ま)つほかはない。ただ、私は、単にそれらの芸術論を解釈し、再構成して示そうとしただけではなく、むしろそうした試みに仮託して、私なりの芸術への思いを、間接的にではあれ、吐露したいと考えたことを、ここで告白しておく。つまり私は、私自身に代わって、それらの大哲学者・大思想家たちに、雄弁に語ってもらおうと考えたのである。逆に言えば、それらの人々の言葉を藉(か)りながら、実は、私は、私自身を語ろうとしたのだと言ってもよい。哲学史・思想史の大きな伝承と遺産を絶えず振り返りながら、それらと私自身とを交差させて、そこに解釈の業を施し、またそれを通じて一つの哲学的な考え方を樹立してみようとすることこそは、学殖を重んじつつ主体的な哲学的思索を試みようとする者が常に心掛けねばならない永遠の課題だからである。

 以上、著者によるまえがきより抜粋。どんな意図の本かはよくまとまっている。取りあげられている人がどんなふうに芸術を論じているのかに興味がある向きには面白いかもしれない。おれは部屋の本棚で肥やしになってる本を消化するために読んだんだけど、いつ買ったのかも覚えていないくらいなので、何を求めて買ったのかも覚えてなく、今読んだ感想は、「著者の声が全然聞こえない」だった。「私自身を語ろうとした」というところは、あまり果たされていないように思う。RTしかしないのに自己紹介が「赤裸々に自己を暴露しています」となってるツイッターのアカウントや、よそのブログを引用しまくって「完全に同意」程度のコメントを入れただけの「自分の頭で考えるブログ」でも読んだような気分。砂を噛むような読書ってのは、こういう気分を表現するフレーズなんだろう。
 誤解のないように言っておけば、上記の哲学者・思想家の芸術論を読みたい向きにはコンパクトにまとまっていて、一読の価値ありなんじゃないかと思うよ。「どうせなら、同じテーマを著者の顔が見えるように書いてほしかった」という不満は、たぶん自分が想定される読者とスタンスやアプローチが違ったことに起因している。こちらの求めるものと先方の与えたいものにずれがあった。