法月綸太郎『ふたたび赤い悪夢』

ふたたび赤い悪夢 (講談社文庫)
法月綸太郎

B017K33L6Y
講談社 1995-06-15
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 やっと読めた。『雪密室(感想)』と『頼子のために(感想)』の続編。

法月綸太郎のもとに深夜かかってきた電話。救いを求めてきたのはあのアイドル歌手畠中有里奈だった。ラジオ局の1室で刺されたはずの自分は無傷で、刺した男が死体で発見される。恐怖と混乱に溢れた悪夢の一夜に耐えきれず、法月父子に助けを願い出た。百鬼夜行のアイドル業界で“少女に何が起こったか?”

 上記2冊とも多少首を傾げて読み終えたので、まさかこいつも……と、不安を覚えながら読み進めた。上記2冊がトリックや犯人だけ覚えていたのに対して、本作はサブのエピソードが記憶にぼんやり残っているだけで、本筋は完全に忘却していた。何が起こるかってところから飛んでいた。それでいて「特に前半が面白かった」という印象だけ刻まれていたので、マジで不安だった。
 のだけれども、読了してみると、今の自分が読んでも当時の同じ感想だった。前半がとてもよかった。
 全編に未完成品に感じた『雪密室』の残響が響きまくるのがいい効果をあげている。『頼子のために』に出てきたキャラクターも再登場するんだけど、これも解釈の深まりみたいなものがあって、好感を持った。全体の六割くらいまでは「よかった。こいつは印象通りの傑作だ」と感じた。すべては本書が続編であるおかげだ。バックストーリーの深みが文庫2冊分あるわけだから、そりゃあ面白いよ。
 ただ解決編はどうなんだろうなあと思った。ネタバレなんで書けないんだけど、個人的にはこの解決は釈然としない。『頼子』で「真実の側に立つ」と言っていた探偵綸太郎が、今回は畠中有理奈の側に立つ(ので、推理が当たってるかどうかではなくて、「こんな真相じゃ駄目だ」的自己検閲を行ったりする)のは、全然かまわない。不満なのは待ち構えた真相の形だ。昔読んだときには、それほど不満に思わなかったはず(思ってたら覚えてるだろう)なんだけど、今の感覚では「この解なら、こんなテーマ扱わなきゃいいのに」と思った。
 それとは別にして、どこに疑問があるかとか、なぜ○○だったのかみたいな部分での作り込みは、考え抜かれているなあと感心した。だから、何を読むか次第で評価がわかれそう。謎解きの徹底ぶりみたいなものを求める人なら、少なくともおれよりは楽しめるだろう(ついでに、おれだって楽しめなかったわけではないのだ)。
 あとAmazonのレビューに

本作には、そうした本筋の他に、八〇年代アイドル論が挿入されています。

  山口百恵的なスターを〈神〉とあがめた七〇年代から、自らが虚構であることを
  隠さず、むしろ、その虚構性を売り物とした、シミュラクルとしての八〇年代の
  おニャン子クラブに至る変遷――。

一見、物語とは無関係に思えるこのパートは、作者が
直面した〈名探偵〉の問題のアナロジーだといえます。

 と書いている人がいて、ああなるほどと思った。あそこお喋りでは「クールに戯れるアイドルファン」ってファン像がしつこく提示されるのに、その後の年表がクールに戯れられなかったアイドルファンのやらかしリストみたいになっていて、ちょっと面白かったんだけど、アナロジーとして読めないこともないね、たしかに。
 同じレビュアーの人とほかにも何名かが大映ドラマに言及していて、おれは全然気づいていなかったが、それも当たってると思う。