『宇宙戦艦富嶽殺人事件』

宇宙戦艦富嶽殺人事件 (徳間文庫 129-1)
辻 真先

4195672066
徳間書店 1981-07
売り上げランキング : 829101

Amazonで詳しく見る
isbn:4195672066 by G-Tools

 戸塚の古本屋の百円コーナーに転がっていたので、大喜びでゲット。
 スーパー・ポテトシリーズ。新進作家ポテトが編集者から受けた注文は「読者が犯人で探偵で被害者」という内容でタイトルは「宇宙戦艦富嶽殺人事件」。ペーペーの悲しさで無理難題を引き受けたポテトは「宇宙戦艦富嶽*1」という自主制作アニメを作った六甲大学アニメ研究部を取材するために神戸に向かった。
 そこから始まる連続殺人事件をポテトとスーパーは解けるのか? 果たして読者=犯人=探偵=被害者という小説は書けるのか? ちなみに注文を受けたときのポテトの心の叫びは次のようなもの。

むりにきまってるだろ、くそったれ!

 いかにもこのシリーズらしい小説なんだけど、読み終わってみると、期待においついていないような気がする。面白かったし、いろいろなところで出てくるアニメ文化論やそういうものへの情熱は感じられるんだけど。二番目の殺人事件の過去のエピソードがもっと絡んできていれば良かったのかなあ。
 本書は「書き下ろし封切り版」として徳間文庫から81年7月に発行された。
 作中の人物が相手のことを「おたく」と呼んでいるのに、新鮮な驚きを覚えた。中森明夫が「おたく」という単語を発明したのは本作から2年後のことだが、実際使われていたんだなあと。
 ちと検索をしてみたら同人用語の基礎知識/ おたく/ オタク/ Otakuって記事を見つけた。そこにこんな記述がある。

ところで当時、そうした人たちが話相手を 「おたく」 と呼んでいたのには訳があり、雑誌に採り上げられる前年より放映された人気アニメ 「超時空要塞マクロス」 (1982年10月3日〜83年6月26日放映/ スタジオぬえ) 内にて、主人公一条輝が他人を指す際に使っていた言葉がまさしく 「おたく」 であり、これをまねるファンが多かったとの事実があります。 転じて、純粋なSFファンなどからはやや敬遠されていた、これらSFチックアニメの熱烈なファンに対する、一種の侮蔑的な呼称でもありました

「宇宙戦艦富嶽殺人事件」を読む限り、順番が逆だろうと思われる。「おたく」という呼びかけはそれ以前からあって、マクロスがそれを取り込んだのだろう。マクロスが取り込んだことによって、さらに普及したというなら納得だが、本書にも用例が見られる以上、マクロスを起源とするのは無理がある。
 ってことはどうでもよくて、他にこの年神戸ではポートピア’81なる博覧会があったことも覚えてなかったので「へえ」だった。んで当時から韓国中国は日本アニメの下請けだったのね、ってことも驚いた。
 ラストはなかなか楽しい難問だった。でもね、イメージしてたのはもっとショックを受ける話だったはずなんだよ。これはこれで面白いんだけど。……なかなか見つからなかったから、期待が膨らみすぎていたらしい。
宇宙戦艦富嶽殺人事件 (徳間文庫 129-1)
辻 真先

4195672066
徳間書店 1981-07
売り上げランキング : 829101

Amazonで詳しく見る
isbn:4195672066 by G-Tools

*1:当然、ヤマトのパロディです。富嶽というのは、米本土爆撃を想定して設計されていた超大型爆撃機のこと。