鈴木邦男 森達也 斎藤貴男『言論統制列島』

言論統制列島 誰もいわなかった右翼と左翼
森 達也 鈴木 邦男 斎藤 貴男

4062129779
講談社 2005-06-28
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by G-Toolsisbn:4062129779
 管理社会に警鐘を鳴らし、時流に異を唱える鼎談本。
 言っている内容を正しい間違っているで判断するなら、正しいと評価できるところの方が多い、しかし話し方を上手い下手で計ると圧倒的に下手。鈴木邦男の話が一番面白かった。いま右翼と言われる人びとの出自を洗うと元左翼という人がとても多いのだそうで、それは何故かというと左翼運動家の組織を作るノウハウが右翼側に重宝されているからなんだとか。それと産経新聞と成長の家が繋がっていると言う話は知らなかったので「へえ」だった。
 が、森と斎藤の話は、聞くべきところはあるものの、語り口が現代にそぐわなすぎ。森はソースを明示できない話を具体例に使う*1し、斎藤は感情が先走っちゃっていて、話し相手の向こうに読者が見えていない感じ。繰り返すが内容のある本ではある。しかしある意味で表紙がすべてを表現しているとも言える。森が現代の社会を表して「葛藤がなくなった」と鼎談で述べているが、肩書きの差の割に、この鼎談にも葛藤がない。なもんだから、相手を説得する必要はなく、お互いが自分の考えを再確認しているだけに見える。
 あとこの本に欠けているのは、現状分析における韓国や中国からの影響で、ほとんど触れられていない。
 たぶんこの人たちは自らをマイノリティーと定義しつつ、同時にマジョリティーを馬鹿にしているのだ。彼らが批判する二世議員たちと同じように。その結果、届く言葉になっていないのが残念だ。自分たちの考えが時流とずれていると自覚しているなら、まず相手の外濠を埋めるところ(手塚が言った漫画はおやつとか。誰の論文だったか忘れたけど、自衛隊を軍隊にしちゃった方が、かかるコストが少ないよとかのような読者がそれくらいなら受け入れても良いと思える間口)から始めるべきで、それを行っていないところが、読者である俺には不満だった。

*1:んで、他の部分で事実誤認があったりするから、具体例の説得力が消える。事実誤認は例えば国内の映画で誰かが昭和天皇を演じたと言うことは、ここ二十年くらいない。メディアは役者に天皇を演じさせることを避けている(大意)という発言をしているのだが、少なくとも大駄作「スパイ・ゾルゲ」では誰かが昭和天皇を演じていたはずだ。