前田愛 幻景の明治

幻景の明治 (岩波現代文庫)
前田 愛

4006021089
岩波書店 2006-11
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 久々に読んだ前田愛。親本は1978年11月発行。明治維新から始まって日露戦争終結時の日比谷焼き討ち事件までの時代のあれこれに考察を加えている本。収録されている中で面白かったのは「高橋お伝と絹の道(シルクロード)」「書生の小遣帳」「三島通庸鹿鳴館時代」「嗚呼世は夢か幻か」「日比谷焼打ちの仕掛人」など。
高橋お伝と絹の道」はタイトルのミスリードにやられた。シルクロードってそういう意味か。
「書生の小遣帳」は現在の専修大学の学生の小遣い帳からあれこれ想像をするといったもので、ソバ2銭の時代に吉原の料金が1円10銭と書かれていて、案外安いような気がした。
三島通庸鹿鳴館時代」では伊藤博文レイプ疑惑にメスを入れているのだが、その過程で当時の黒田清隆人気に目をつけ「善玉としての黒田のイメージをヨリ完全なものに仕上げるためには、悪玉としての伊藤のイメージが一層どぎつく描き出されなければならない。「令嬢強姦」の一件が事実か否かは本質的な問題ではないのだ。*1」と述べた後で、

私の推測を付け加えるならば、この芝居の筋書きを書き下ろした狂言方は、のちに『萬朝報』で高官や富豪の醜聞を大胆に告発し、まむしの周六の異名をとった黒岩涙香ではなかったかと考える。涙香は明治十九年から二十二年にかけて、伊藤のスキャンダルを最初に暴露した『絵入自由』の主筆をつとめていたのである。『絵入自由』が黒田のイメージづくりにもっとも力を入れた新聞のひとつだったことをつけくわえてもいいだろう。

 として、その協力者まで予想しているのだが、鶴見俊輔の「限界芸術論」(amazon)所収の涙香評伝に拠れば、涙香はそれ以前に黒田が関わった北海道の払い下げ事件を糾弾して逮捕された経歴もあったので、意外な気がした。しかしネタとしてはなかなか面白い。
「嗚呼世は夢か幻か」では明治三十八年に起こった野口男三郎事件が素描されている。これは著者曰く「明治の刑事裁判の中で最大の謎とされている」事件なんだそうで、野口寧斎が義弟の野口男三郎に殺された顛末(その途中で尻を切り取られて子供が殺された事件なんかもあったらしい)を素描したもので、なかなか興味深かった。
「日比谷焼打ちの仕掛け人」はタイトルのまんまの論考。

 一個一個の論考もそれぞれに印象深かったのだけど、一番残ったのは「○○は××の陰画(ネガ)なのだ」というフレーズ。そんなには使われていないと思うのだけど、なんとなく決めゼリフっぽかった。

*1:P.150