ギルバート・モリス 羽田 詩津子訳 猫探偵ジャック&クレオ

 タイトルに脱力し、これは読まねばなるまいよと読んだ。
 29歳のシングルマザー・ケイトは熱心なクリスチャン兼ワープワで毎日の生活にうんざりしている。そこに弁護士がやってきて、実はあんた、大金持ちのばあさんの遺産相続人だったんだよ。ただし相続には条件がある1)ばあさんの屋敷に住むこと、2)ばあさんが愛して止まなかった動物たちの面倒を見ること。どうだい、引き受けるかい? と、シンデレラ展開する。すでに猫を2匹(ジャックとクレオ)を飼っていたケイトではあるが、さっさと引っ越すことにしていつまでも幸せに幸せにくらしましたとさ、めでたしめでたし……ってなったら、話が始まらない。実は相続人はもう一人いた。それが元デルタ・フォース兼シカゴ警察勤務、目下ワナビー・ライターのジェイク(趣味は料理)だ。ってことで奇妙な同居生活が始まった。
 ミステリなので、まあ殺人事件のひとつも起きなきゃなるまいよと死体が出てくる。ケイトの息子ジェレミーが容疑者になってしまう。怪しいのは、昔ジェイクと一悶着のあったギャングの親玉だ。おっと、被害者の餓鬼もそうとうな糞野郎で、親父は嫌な金持ちで妻との仲は冷え切っているぞ。はてさてどうなる。
 というような話なんだが、謎解きっていうよりは、一家に大変な出来事がふりかかっちゃいましたどうしましょうというストーリーで、猫探偵のはずのジャックとクレオも一カ所を除いては別段活躍らしい活躍もしない。ジャックは屋敷の他の動物や、ジェイクとの戦いに精を出し、クレオはゴロゴロ言ってにっこり微笑むばかり。まるきり探偵なんかではない。実に散漫だ。

 では面白いところはないのかというと、そうでもない。いやむしろ面白かった。それはミステリとは全然関係のない場面で、たとえばジェイクが料理を作ったり、パソコンに向かって「偉大なアメリカ小説」を書こうと苦闘していたり、動物たちの餌やりに精を出したりするところだ。料理は美味そうだし、小説は何が書いてあるのか気になるし、動物たちはどれもこれも愛らしい。俺が特に気に入ったのは、電気コードを囓っては感電するウサギ(一度心停止する)。なんつーか、事件なんて飾りですよ。

 唯一の不満はジェイクがジャンクフードを嫌う余り、電子レンジでチンすりゃ食える食品を片っ端からゴミ箱に捨ててしまうところだ。冷凍のラザニアが捨てられたところで涙が出た。もったいないじゃないか!

 つーことで、ミステリなんて期待したら肩透かしを喰うだろうけども、のんびりと安心して読む本としては、なかなかよろしいのではなかろうかと思う。ジャックのアメコミヒーローみたいなしゃべり方(誤解かも)もなかなか味があって良かった。シリーズはあとふたつ出ているそうなので、翻訳が出るのを楽しみにしたい。
猫探偵ジャック&クレオ (ハヤカワ・ミステリ文庫 モ)

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追記:関連記事を見ていたら、猫探偵カルーソーという本があるのも知る。表紙が凛々しすぎたので張っておく。これは欲しい。

猫探偵カルーソー (扶桑社ミステリー)