櫻田 智也「サーチライトと誘蛾灯」

サーチライトと誘蛾灯 (第10回ミステリーズ!新人賞受賞作)
櫻田 智也

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東京創元社 2013-10-15
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わが街のドングリ公園は、住民から愛されるちょっとしたオアシスだ。治安を維持するため、吉森らボランティアの「見回り隊」が毎日パトロールしている。今夜の巡回も無事に終わると思いきや、いきなり喧嘩腰のカップルに絡まれるわ、怪しげな男が道具を組み立てているわ、さらには……。ここではいったい、何が起こっているのか? 夜の公園を訪れる奇妙な客たち。彼らの来訪と共に起きた事件の、意外な真相とは? ユーモアあふれる筆致で贈る、第10回ミステリーズ!新人賞受賞作。(本電子書籍は、『ミステリーズ! vol.61』(2013年10月初版発行)に掲載の同作品を電子書籍化したものです。)

「砂漠を走る船の道」(感想)を読んで以来、毎年楽しみにしているミステリーズ!新人賞の結果が出て、本作が受賞していた。第六回が受賞作なし、第七回が「強欲な羊(amazon)」(個人的には首を傾げたけど、読書メーターの感想では評判いいみたい)、第八回が受賞作なし、第九回が「考える人になりかけ(amazon)」(個人的には大変な問題作だと思った)、そして今回だったので受賞作出ないんじゃないかなと思っていたがそんなことはなかった。選評では泡坂妻夫との類似性(ネタが被ってるってんじゃなくて雰囲気ね、雰囲気)が指摘されていた。実際のところどうなのかわからないけど。ただ、話の動かし方はとっても余裕があって、ゆったりした気分で読めたのは間違いない。見回り隊のおじさんとカブトムシマニアの会話もすっとぼけていてよかった。それでいて細かいところまでちゃんと再利用されているのも素敵。安心感という意味では『田舎の刑事の趣味とお仕事」(感想)に近いかも。感じたテンポはこっちの方がのんびりしていたけど。その分といえばいいのかどうか、田舎の刑事の一本目は二つの事件の同時解決みたいな大技があったのだが、本作はそうした大仕掛けはなく、謎の提示と解決がずいぶん近かったので、人によっては物足りないと思うかもしれない。いずれシリーズ化されて単行本になれば、抜群の安定感を持ちそうな気はするものの、単体で見た場合にはちょっとインパクトに欠けるうらみもあった。この点、枚数の制約があるから、すっとぼけた会話の量とバーターになるわけで、どっちを取るかは悩ましいところだったろうなあと思った。そこで謎解きの過程より会話を優先させたところが、著者の個性なんだろう、きっと。考えてみれば、萌えっぽい要素を一切切り捨てているのもすごいよな。
 ライトなミステリーを考えるときには抜群のモデルになりそうな良作で、たぶん読んで損した気分になる人はそれほどいないんじゃないかな。価格も雑誌で選評だけ立ち読みし、キンドル版買って読んだので、200円とお手頃だった。けっこう満足。

関連記事:元ライター櫻田さんがミステリーズ!新人賞をとりました(デイリーポータルZ 制作日記(DPQ))

追記2017/12/08 単行本にまとまっていた。
サーチライトと誘蛾灯 (ミステリ・フロンティア)
櫻田 智也

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