朱川湊人 フクロウ男

 2002年のオール讀物推理小説新人賞受賞作。「都市伝説セピア」という短編集に収められている。図書館で読んだ。
 俺にはどこが推理なのか全く見当もつかなかったが、中盤が抜群にすばらしい。本作の語り手はフクロウ男と呼ばれる殺人犯。事件はすでに終わっており、その顛末を友人に手紙で告げる形が取られている。語り手は幼い頃、乱歩に耽溺し、二十面相に憧れる。こんな風に。

怪人二十面相は、あの手この手で都市伝説を作りあげようとしていた偉大な人物さ。社会というつまらない世界に幻想の花を咲かせようとした最高のエンターテナーなんだ。

幻想があるからこそ、人間は自分が意味なく生きている事実も納得できるし、それでも生きていていいのだと思うことができるのさ。だって人間の命もまた、人知を超えた幻のようなものなんだもの。

 で自らも幻想を作り出すべく、ネットに「フクロウ男」の都市伝説を放流する。それが伝播し尾ひれがついていくのが中盤。ここが非常にワクワクするというかうっとりするというか。とにかく素敵。また「伝説の天敵は常識でもなく科学でもなく、揶揄なんだ」という指摘は、伝説に限らず何にでも当てはまる鋭い考察が凝縮されているように感じられた。ラストは話を終わらせるためにあるような蛇足に過ぎない気もするし、ひょっとしたらもっと長くなってしかるべきモチーフが未消化で終わったと言えるのかもしれないが、中盤の良さはそれを補ってあまりある。
 面白かった。
 他のはどうなのかなと気になったんだけど、図書館にはハードカバー版しかなくて重いので、そのうち文庫版を買って全部読んでみようと思う。