アフリカの爆弾 (角川文庫 緑 305-2)
筒井 康隆
角川書店 1971
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押入から出てきた短編集。収録作品は
- 台所にいたスパイ
- 脱出
- 露出症文明
- メンズ・マガジン一九七七
- 月へ飛ぶ思い
- 活性アポロイド
- 東京諜報地図
- ヒストレスヴィラからの脱出
- 環状線
- 窓の外の戦争
- 寒い星から帰ってこないスパイ
- アフリカの爆弾
謎の媚薬ボールを作ってしまう「活性アポロイド」もよかったが、「ヒストレスヴィラからの脱出」が個人的にはいちばんだった。出だしがいいのだ。
旅に出ることにした。
なぜ旅に出るのかと友人に訊ねられ、旅さきでまだ見も知らぬ自分にめぐりあうためだと答え、きざなことをいうなと笑いとばされたが、実際はその通りだった。
事業に失敗し、恋人には逃げられ、税務署の差押えはくうわ、家は人手に渡るわ、買った馬は負けるわ、町で拾った女からは悪い病気をうつされるわ、金は落とすわ、犬には咬まれるわ、ままよ後生楽勝手にさらせ、もうおれには何も残っちゃいねえ、いっそのこと自殺をと思ったものの、人間というものはなかなかあきらめの悪いもので、いや待てまておれにだって、まだ何かの可能性が残っているかもしれないと考えなおし、その可能性をさぐり出すために旅に出ることにしたのである。
行先は、ひとりになれるところならどこでもよかったが、同じことなら、まだ地球の人間が誰ひとりとして行ったことのないようなところの方がいい。この銀河系宇宙のはずれには、人跡未踏の秘境や、えたいの知れないところがいっぱいある。宇宙船を乗り継いでどんどん行けば、いつかは面白いところに出るだろうと考え、おれはある日、ふらりと家を出た。
畳と扇風機でも出てきそうな書き出しから、突然遠い未来へ音もなく連れて行かれたような気分がした。
あとは当時より今のほうが皮肉の効いていそうな「寒い星から帰ってこないスパイ」が印象に残った。