ミュリエル・スパーク 永川玲二訳『死を忘れるな』

死を忘れるな
ミュリエル・スパーク 永川 玲二

4560042705
白水社 1990-07
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老いと死をめぐるブラックコメディ

「死ぬ運命を忘れるな」と電話の声は言った。デイム・レティ(七九歳)を悩ます正体不明の怪電話は、やがて彼女の知人たちの間にも広がっていく。犯人探しに躍起となり、疑心暗鬼にかられて遺言状を何度も書き直すデイム・レティ。かつての人気作家で現在は少々認知症気味のチャーミアン(八五歳)は死の警告を悠然と受け流し、その夫ゴドフリー(八七歳)は若き日の数々の不倫を妻に知られるのを恐れながら、新しい家政婦(七三歳)の脚が気になる模様。社会学者のアレック(七九歳)は彼らの反応を観察して老年研究のデータ集めに余念がない。謎の電話が老人たちの間に投じた波紋と、登場人物ほぼ全員七〇歳以上の入り組んだ人間模様を、辛辣なユーモアをまじえて描き、「この五十年間でもっとも偉大なイギリス小説のひとつ」(ジュリアン・バーンズ)と評される傑作。

 という内容紹介に惹かれて、まず英語版(amazon)のサンプルを読んだら面白かったので、日本語に切り替えて最後まで。英語版のほうが軽快な印象を受けたけれども、読解力の問題かもしれない。
 チャーミアンと元メイドのテーラーがほわほわとして止まり木のような役目を果たす一方、残りの人たちが誰も彼も気の強い頑固者揃いで、っていうか、チャーミアンとテーラーだって頑固っちゃ頑固で、全編これ、あんまり成立していない会話に覆われており、そこからなんともいえないおかしみが滲みだしていた。あらすじに出てくる謎の電話を巡る謎以外にも、別の老婦人の死をきっかけにした遺産相続問題や老詩人同士がアーネスト・ダウスンの扱いをめぐって激論(?)を交わしたり、病院の看護婦長の異動をめぐるいざこざがあったり、父親と子供が同じ女のところに通っていたりと、サブ・プロットが結構盛りだくさん。「偉大な」という形容詞が当てはまるかどうかはよくわからないけれども、読んでいて面白かったのはたしかだった。

 上の書影が読んだバージョンなんだけど、今入手しやすい白水社Uブックス版↓表紙と内容のイメージが近いのはこっちじゃないかと思う。
死を忘れるな (白水Uブックス)
ミュリエル スパーク Muriel Spark

4560072027
白水社 2015-09-03
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