『はじまりの島』

はじまりの島 (創元推理文庫)
柳 広司

4488463010
東京創元社 2006-09-30
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 2002年刊行作品。かの有名なダーウィンを探偵役に、ガラパゴス諸島で起こった連続殺人事件を描く。

――それでは尋ねるが、
オックスフォード主教サミュエル・ウィルバーフォースは興奮して声をあげた。

 事件の推移も面白く、ところどころ挿入されるクイズにもにやにやさせられた。テーマ自体はかなり重いものを扱っているのだけれど、書き方はところどころとぼけていて良い。ある章の終わりはこんな感じ。

 わたしは気を失う寸前、首に巻き付けられたものが、死んだ○○*1の首に巻きついていたのと同じ種類の革紐であることに気がついた。
 なんの役にも立たなかった。

 だからといって決してウケねらいばかりの作品ではない。ある人物の語る次のような言葉は作者が訴えなければならないという使命感で書いたのだろうと思われる。

たとえ神がいなくても、たとえ罪を知ることができないとしても、だからこそ人間は光に憧れ続けなければならない、光を求めて祈り続けなければならない。それが人間の精神にとっての”はばたき”なのだ。

 これまでに読んだ「黄金の灰」「贋作『坊っちゃん』殺人事件」の2作品には探偵役に、ある共通項が存在した。その共通項はとても面白いと思うのだが、本作において探偵ダーウィンにそれは付与されない。むしろ本作のダーウィンはむにゃむにゃがむにゃむにゃ(←核心部分)であることを知っていた。ここが事件により痛みを与えている。
 ところで大昔、知人が「これ、動機が凄いから読んでみて」と一冊の本を渡してきたことがあった。あのとき渡されたのが、あんなくだらねえ本じゃなく、この話だったら、俺は激しく頷けたのにと思った。
 とりあえず面白いですよ、もちろん。

*1:引用者改変