カール・グスタフ ユング 松代 洋一訳 創造する無意識―ユングの文芸論

創造する無意識―ユングの文芸論 (平凡社ライブラリー)
カール・グスタフ ユング Carl Gustav Jung 松代 洋一

4582761402
平凡社 1996-03
売り上げランキング : 28476
おすすめ平均 star

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
「分析心理学と文芸作品の関係」「心理学と文学」「エディプス・コンプレックス」「超越機能」の四本を収めた論集。
 心理学なんて大嫌いだと思っていて、ことにユングは学問っつーよりオカルト(ただその辺りが魅力的)というイメージが強かったのだけど、本書を読む限り、誤解だったというか、ユング伝説と本人の著作にずれがあったというべきか。

一面性と硬直した原理主義とは、パイオニアとしての仕事をいくつかの観念を道具に成し遂げるほかない若い科学につきものの子供の過ちなのである。さまざまの教説が生まれるべくして生まれるのはよくわかるし許せもするが、それでもこれまで私が倦まずに強調してきたように、ほかでもない心理学の領野でこそ、一面性と教条主義は重大な危険を孕んでいる。心理学者はつねに、自説がまず何よりも自分自身の主観に含まれるものの表出であり、したがってそのまま一般に妥当するかのように言い立ててはならないことを銘記しなければならない。心の可能性という領野にあっては、個々の研究者が解明に寄与できるのは差し当たりほんの一つの視点にすぎない。ということは、仮にこの一つの視点をたとえ要望としてでも一般に拘束力を持つ真理とするならば、客観に対して最悪の暴力を振るうことになるだろう。

 ワイドショーで、ペラペラと心理学の用語を並べる肩書き心理学者の姿は、このユングの言葉から遠い。奴らの印象と、自分がこれまで接触してきた心理学者の卵の印象で、ちょっと偏見があったかもしれない。いや一冊読んだくらいで何が分かるってなもんだが。少なくとも、本書において語られているのが、実に慎重な、人間心理への考察であり、よく耳にしたような「人間心理の公式」的な傲慢な教説でなかったことには、とても好感が持てた。他の本も読んでみようと思う。