柳瀬尚紀 翻訳は実践である

翻訳は実践である (河出文庫)
柳瀬 尚紀

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河出書房新社 1997-03
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 立ち寄った古本屋で購入。今日は友人と忘年会だったので行きと帰りの電車で読む。英文が出て来て、これをこんな風に訳しましたというところは興味深く、「ゆうべ女房をころしてしもうた」(amazon)の訳などはすごく良いと思った。

Necessity

Late last night I slew my wife,
Stretched her on the parquet flooring;
I was loth to take her life,
But I had to stop her snoring!

が、こんな風に訳される。

        やむをえず

     ゆうべ女房をころしてしもうた
       床にごろりとのばしてしもうた
     息の根とめるにゃしのびんかった
       いびきをとめにゃ眠れんかった

 他に幻獣辞典(amazon)を訳したときの話の章なんかが面白く読めた。謎があって、それを追求していく話というのは、それだけでワクワクする上に、この章ではその結果生成されていく知のネットワークみたいなものの躍動感も伝わってきて、気持ちが良かった。
 ただそれ以外のところにはあまり感心しなかった。翻訳の話題から離れた途端、言葉遊びへのこだわりが、話題にそぐわないように感じられる。これは他の著書にも言えることだったような気がするので、著者の書き癖として受け入れるしかないのだろうけど。

 最後に予告されている「新潮英和」という辞書はもう出たのかとアマゾンを調べてみたが、まだ出ていないようだ。早く出ないかな。これはとても楽しみだ。

思い出したので追記。p.39にこんなくだりがあった。

じつはこの‘Yikes!'なんかは辞書をみたいですね。この種の語は、ぼくはパートリッジの例の三巻本を見るんです。準プロのかたならパートリッジの三巻本といっただけで、ああ、あれかとわかるでしょ。

 この三巻本というのがなんなのか分からず、そもそもパートリッジって誰? と思ったので、検索してみた。どうやらスラングやキャッチコピーの辞書を作った人みたい何だけども、アマゾンで調べても、ウィキペディアの英語版を見ても、「三巻本」が見つからず。「A Dictionary of Slang and Unconventional English」(amazon)とは違うのかなあとか思ったり。
 あ、ちなみにYikes!の意味は

An exclamation of surprise or excitement or pain (以下略)

 となっているそうな。

さらに追記:翻訳家鴻巣友季子のインタビューに柳瀬尚紀への言及があったので、ついでに引用しておく。

文学修業では、大学時代に、ジェイムズ・ジョイスの翻訳で知られる柳瀬尚紀氏の薫陶を受けたことが大きな財産になった。「例えば、先生は手紙ひとつでも、横書きだったり鉛筆書きだったりすると受け取ってくださらない。誤字が1字でもあれば突き返される。そうした中で、私は物を書く上での姿勢を学んだと思います」と鴻巣さんは振り返る。

http://www.alc.co.jp/eng/hontsu/h-itv/1101.html

 気むずかしいおっさんだなあ。高いプロ意識の表れかもしれないけれど。