スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ12 『ミセスマーメイド』から『今夜の涙は最高』まで


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第12回
前回。
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で、『ミセスマーメイド』。大好き。
スージーさん評はといえば、

見事にタイトなリズムセクションに驚く。クロベエとユウジの最高傑作コラボレーションと言えるのではないか。エイトビートとシャッフルの中間で、がんがんにスウィングするリズムが、やたらと気持ちいい。また、この曲では、トオルのギターが、そのリズムセクションに、見事に絡みついている。

 うんうん、そうそう。イントロから前半のあいだは、意外とサックスが目立たないんだよねえ。最後は主役なんだけど。ここまでの曲はどれもこれも当時「大人~」と思って聴いてたんだけども、これは「かっけえ大人~」って感じだった(ジャケットも渋い大人感たっぷりだった)。ので、

あえて難点を言えば、当時のフミヤが好み執拗に繰り返していた「V字唱法」が気になるのだ。

と言われても、当時も今も「何言ってるんですか、あれが最高なんですよ!」と言わずにいられない。「メンバー同士のディスカッションの中で異論は出なかったのだろうか」って出るわけがないのだ(確信)。2018-2019のカウントダウンでこれが始まったときは「生で、ミセスマーメイド!」と無茶苦茶感激した。ただ、これに関しては(も?)チェッカーズでの演奏が聴きたかったよなあと。ライブソフトだとホワイトパーティーブルームーンストーンで見たけど、どっちも格好良かった(格好良かったしかいってないのだが、格好良かったしか言うことがないのだから仕方ない)。

 で、スージーさんに異論があるのだが、これって不倫ソングなんだろうか。「あの夏」になかよくなった相手と(たとえば来年また会おうねとか言っていて)「あの日のままのふたりの約束だけで何も知らずにきみを待っていた」ら、相手は会ってないあいだに別の出会いがあって結婚していたって話なんじゃないの? 「白いハンカチ取り出す君の指に何も言えずに唇噛んだ」ってそういう意味なんだと思っていたんだけど、『Cherie』の逆バージョンでミセスが出会いが眩しすぎて嘘ついてた話? この本読むまで不倫ソングだと思ったことが一度もなかったから、結構驚いた。ともあれ、今の時点で考えるなら、いちばん格好いいと思うシングルA面曲かもしれない。それだけに、その次の『ふれてごらん』を聴いたときの落胆は凄かった。「売れるわけねえだろ~」と思った。あまりのことに「大人~」とすら思わなかったのを覚えている。アルバムに入っていたら「いい曲~」って思ったかもしれないんだけど、シングルにすることはなかったんじゃないかと今でも思う。スージーさんも結構困ったようで、ユウジのベースプレイだけ語るって一点突破にかかっていた。

 この本は、ゴシップなど、メンバーにまつわる瑣末事をほとんど無視して、チェッカーズの音楽性だけを深く捉える本であり、つまりは、この曲におけるユウジのベースに「ふれてごらん」と主張する、おそらく史上初の本である。

 と、最後までユウジのベースだった。個人的には、この曲であえて聴き所を考えるなら、ナオちゃんのフルート。きらめく風の妖精たちが飛んでる様子をフルルル~って音で表現していて、聴いているとティンカーベルがフミヤのまわりを飛んでるようなイメージが浮かぶんだよね。
 なんだけども、このCDはカップリングの『トライアングル・ブルース』が格好いいんだよなあ。
www.youtube.com
 どうしてこっちをメインにしなかったんだろう。かなり本気で謎。個人的な話をすると、97年か98年くらいから藤井フミヤの曲すら聴かなくなって、例の本とクロベエ逝去で再結成の可能性も消えて、これでチェッカーズ聴くこともないなあと思ってた私が、突然何かに取り憑かれたかのようにyoutubeを漁って、押し入れの奥から眠っていたCDを引っ張り出してiTunesにインポートし、ずっとチェッカーズばかり聴くようになったのは、一昨年のある日、突然この『トライアングル・ブルース』が勝手に脳内再生されて、「無茶苦茶聴きたい!」って思ったのがきっかけだったりします。なので自分のなかでは名曲認識(確認したら作曲マサハルだった。おれもマサハルメロディーが好きらしい)。この曲がなかったら、たぶんチェッカーズをまた聴きだしたりはしなかったし、スージーさんの本も買ってない。カップリングまで論評してくれたら、この曲をどう料理するのか楽しみにできたんだけどなあ。

 で、「こんなの売れるわけねえだろー」って思った『ふれてごらん』の次に出た『今夜の涙は最高』に至っては「こんなん出してどーすんのさー」って思ったのだった。これは全然受けつけなかった。一回テレビで歌ってるのを見たけど、フミヤがリーゼントでエルビス・プレスリーが使いそうな形のマイクで歌ってて、もう「大人」通り越して「おっさん」に見えたのだった。なんかやる気を感じなかった。まあ、時期が時期だけにという気もする。自分的には解散の予兆を感じた曲。ただ一昨年、たぶんF-Bloodの映像を見たときにこれが歌われていて、それを聴いたときには悪くないと思った。コンセプトは坂本九だったとかそんな話も見たような気がする。

 そして、この曲へのコメント中、本書の帯にもなったあのフレーズ、「チェッカーズは、日本最後のロックンロール・バンドだった」の説明がされている。

 ぱっと見、チェッカーズは、キャロル、ダウン・タウン・ブギウギ・バンド横浜銀蝿という、(狭義の)ロックンロール・バンドの後継と捉えられる。そして83年から92年まで、日本におけるロックンロール・バンドのムーブメントを、孤立無援のかたちで守り続けたと言える。

 しかし、もう少しマクロに捉えてみると、そもそもロカビリーから和製ポップスの時代、そしてグループサウンズ(GS)の時代、そしてキャロル以降と、日本人が洋楽を取り入れてきた歴史には、ロックンロールがずっと基礎を成していたと言える。
 チェッカーズはその末裔(まつえい)であり、かつ、その後のシーンの変化まで見据えると、実は「日本における最後のロックンロール・バンド」と言えるのではないか。

 92年リリースのこの曲は、すでに絶滅危惧種となりつつあった「ロックンロール・バンド」としての底意地のようなものだったのではないかとのこと。そう思って聴き直すと、なんかロックンロール・バンドのプライドが乗っているように感じられるから不思議だ。少なくともこの曲に関しては、スージーさんの文章を読んだあとのほうが好きになった。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

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