スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ13最終回


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ最終回。
前回。
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 すごいぞ『Blue Moon Stone』、スージーさんの照れ隠しな「適度に距離取ってます」ポーズをむしりとった。「まごうことなき名曲」から文章始まってるよ。「チェッカーズ全キャリアの到達点」とまで持ちあげている。
 いい曲なのは間違いない。はじめて聴いたときはイントロの清々しさから引き込まれたものである。年に一曲くらいこのレベルの曲が出てくれたらずっと聴き続けるよなあとかも思った。メロディを形容する言葉を探すとすれば「コンテンポラリー」くらいだというスージーさんのコメントもなんとなくわかる。で、スージーさんの切り口「チェッカーズは日本最後のロックンロール・バンド」とこのコンテンポラリー性が矛盾するように感じる人がいることを見越してスージーさん、こんな説明をしている。

チェッカーズ・ファン(かつ意識的な音楽ファン)においては、矛盾を感じる人は少ないはずだ

 なぜなら、ロックンロール(久留米性・ヤンキー性)をベースにしながら、それだけに留まらず、強烈な進取の気性(東京性・コンテンポラリー性)によって、あらゆる新しい音楽性を柔軟に取り込んでいく。それこそがチェッカーズだと理解しているだろうからだ。
 そもそもロックンロールというもの自体が、その時々の新しい音楽性を取り込み、自らの栄養として摂取して進化してきたジャンルなのだから、どこにも矛盾など無いのだ。

 ここを読んだときに「だったら『運命』の評価やり直しましょうよ」と思ったのはおれだけじゃないと信じる(笑)チェッカーズの音楽に矛盾はなくてもスージーさんの言ってることは矛盾してるぞ、たぶん。が、まあ、しかし、この箇所はこう続く。

分母にロックンロール・サウンド、分子にコンテンポラリー・サウンド。この分数から生まれる魅惑的なサウンドビートルズであり、ローリング・ストーンズであり、そして、我らがチェッカーズなのである。

 そこまで持ちあげてるんだから、まあいいかという気もした。ビートルズストーンズチェッカーズって並べ方は大昔に読んだ『X Japan伝説』のバッハ、ブラームスYOSHIKIを思い出すくらいの「盛りすぎじゃね?」感あってとてもよかった。さすが「動脈の中で、チェック柄の血球が、いつも流れている」スージーさんである。『運命』をくささせたのは、この「チェック柄の血球」(要するに胸に刻み込まれたアイドルグループのイメージだ)のなせるわざだったんだろう。
 解散発表が『ミュージックステーション』だったのは言われて思い出した。テレビ欄見て、「へ?」ってなり、番組見たらタモリが「解散するの?」と尋ね、フミヤが「解散しますね」と答えていたような記憶が蘇った。悲壮感なさすぎて「あー、そうなのかあ」くらいしか思わなかったような気がする。引用されているコメントについては覚えていなかった。もちろんスージーさんのように「チェッカーズのことを忘れずに生きていこうと思った」なんてこともなかった。ってか、もうどう考えても強烈なファンじゃないか、このコメント(笑)
 あとデータでこの曲が『夜明けのブレス』より売れていたのがちょっと意外で、それなのにオリコン最高位は7位ってなっているので、売上ピークが発売当初と解散発表直後と二回あったのかなという気がした。発売当初にフミヤがよく「月にチェッカーズと書けばその文字はずっと消えない」みたいなコメントを出していたように思ったんだけど、あれは引用してくれないのか。そこが一番のメッセージだと思っていたのに。

そして、最後の曲『Present for you』に到達。『NANA』以降でいちばん売れたシングル、らしい。けども、最初からエピローグ感満載なのもあって、当時はあんまりいい印象なかったなあ、これ。
 スージーさんも曲がどうこうよりも解散までの逸話を拾って、最後の紅白を詳しく記述している。自分もその紅白はリアルタイムで見ていた。のだけれども、実はそれほど強い印象がない。紅白に至る年末音楽祭系の番組に出まくっていたチェッカーズを見ているうちになんか解散に納得がいってしまったところもあったし、10年前の曲を歌ってる姿からは最近は爆発的ヒットがなかったということを読み取っていたので、まあ仕方ないんじゃないの、残念だけど。くらいの気持ちで大晦日を迎えたせいもあると思う。
 だから、むしろ、びっくりしたのは、そのあとだったんだよね。93年1月発売の雑誌群にチェッカーズの記事が出るわ出るわで、そこではじめて「思っていた以上にインパクトのある出来事だったんだ」とわかった次第。覚えている見出しは「七人が伝説になった夜」で、これは武道館公演を扱っていた。伝説になったあと、紅白出たじゃんって思ったのを覚えている。このへんも社会現象になった時期がリアルタイムじゃないのでボリュームゾーンを形成しているファンの人たちとは感じ方が違ったんじゃないかと今は思う。そんなぼくでもスージーさんの書いた結論には頷けるのがチェッカーズのすごいところだ。「当時、チェッカーズの強烈なファンではなかった」と「はじめに」で書いたスージーさん、「おわりに」でこう言っている。

ファッション性、ビジュアル性、メディアミックス感覚まで考えると、「日本最後のロックンロール・バンド」は「後にも先にも横にも無い、日本唯一のチェッカーズ」だったのではないかと、あらためて感じ入るのだ。

 結局、それなんですよねえ。このワンフレーズ書くために一冊書いたんだから、スージーさんのチェッカーズ愛はなかなか溢れまくっていると思う。ナオちゃん推しな人は「いくらなんでもユウジびいきが過ぎないか」というより、ナオユキの貢献度を低く見積もりすぎではないかと思いそうな本ではあるものの、たぶんそうなった動機は「いくらなんでもユウジが過小評価されすぎではないか」という憤りにあるんだろうから、言わばアファーマティブアクションなんであって、七人全員凄かったんだぞというのが受け取るべきメッセージなんだろう。もちろん、ファンがそれをわかっているのは前提に「おれがユウジをどう語ればいいのか、教えてやらなくては!」っていうような課題を自分に課していたようにさえ、読み終わった現時点では思われるのだった。

 で、何度でも繰り返しますが、シングルのA面だけで一冊作ったのは素晴らしいんだけども、全然食い足りないから、全曲レビュー、六人全員インタビュー、メディアミックス戦略解説、伝説コレクションを一冊にまとめた600ページくらいの本を、今度は照れなしの煽りまくりの文体で、是非続編として書いてほしい。スージーさんが選ぶベストライブ集DVDとかオマケについてくればなおよし。楽しみに待ってるよー。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

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