今週のニューズウィークから

ちょっくらメモ。
・ヒラリーのアジア歴訪は成功したか
 シンガポール大学リー・クアンユー公共政策大学院院長のキショール・マブバニさん寄稿。一定の評価を与えながらも中国の方が一枚上手だったねという論調。結構驚いた提言があった。「チベット、人権を放棄せよ」

まずは中国との関係について、これまでの前提を見直す必要がある。共産中国がソ連のように消えてなくなることはないだろう。ならば、中国をさらに国際社会に取り込むことに重点を置き、ダライ・ラマ14世への支持や人権侵害批判など、中国側に「中国の安定を揺さぶろうとしている」と受け止められる政策も捨てるべきだ。

 最初、チベットが呼びかけなのかと思って本当に驚いた。

イスラエル右旋回のシナリオ
 選挙の結果、組閣を要請されたのは右派リクードベンヤミン・ネタニヤフ。でそのネタニヤフと「わが家イスラエル」党首のアビグドル・リーベルマンへのインタビュー記事。ネタニヤフの言い分は「最終的な和平合意はパレスチナ人によるパレスチナ人統治を可能にするものでなければならない」が、「イスラエルの脅威となるような権限を与えるわけにはいかない。」。一応リップサービスかもしれないが「パレスチナ人との和平を望んでいる」し、「人道援助がきちんとガザに届くようにすることが課題」とも言っている。リーベルマンと比べるとまだ穏やかな受け答えに見える。こっちは人種差別主義者だと見る人もいるがと訊かれて、

イスラエルの人権侵害を非難するアメリカ人の発言を聞くたび、私は米議会でサウジアラビアの人権についての公聴会が開かれるのを待ち望んでいる(と答えてきた)。イスラエルの人権侵害への非難に耳を傾けるのはそれからだ。

 だもんなあ。

・崩れゆく共存の理想郷
 これもイスラエルの話。北部の港町アクレはアラブ系住民とユダヤ人が共存していることで有名だったが、昨年10月のヨムキプール(贖罪の日)に暴動が起こり、雰囲気がおかしくなってきているとのこと。二週間前にも報じられたアラブ人の追い出し政策への支持が国内世論調査で60%に上っている影響もあって、アラブ系住民は略奪にあったりもしているらしい。興味深いのが略奪にあったアラブ系住民の声。もともとは宗教色の薄かったのだが、今ではイスラム系政党支持をすると答えたアラブ系住民の言葉はこんな感じ。

「宗教の問題じゃない。助けてくれる人に投票する。」

 腑に落ちる台詞だと思った。ある面宗教は隠れ蓑になっていて、たぶんこれは誰が理不尽な暴力の被害者に手を差し伸べるのかという問題だ。人種対立の結果略奪を受けて、助けてくれるのがイスラムだけならそりゃ宗教に縋るだろう。ということをもっともよく分かっているのはユダヤ人のはずなんだけどな。歴史の知識がないので、それ以上は言えませんけど。ただ、記事を書いたケビンペライノエルサレム支局長はこの声を取りあげた直後の段落で、

 このままでは宗教的な対立が深まるのは必至だ。(中略)これからは、内なる敵にも目を光らせる必要がある。

 あんた、耳はついているんですか? と思った。

フェースブック7つの嘘
 まんまミクシイの話に見えた。どこの国でもSNS事情は変わらない。

・幸せを呼ぶストレスの最新科学
 ストレスが常に有害だとは限らないかもしれないという話。知らなかったのはストレス研究の基礎を築いたのが、ハンス・セリエという生理学者でそれは大恐慌の1930年代だったということ。そうだったんだあと思ったのでメモ。5ページに渡る記事でストレスに強くなれるかどうかは人生に対する決定権を持っているかどうかが重要な鍵になる、みたいなことが書いてあった。

・バービーの胸に恋して
 今年で誕生50年のバービー人形の生みの親には2説あるよ、という話。一説にはマテル社の創業者ハンドラー。もう一説にはマテル社に勤めていたデザイナーのジャック・ライアン。ライアンというのがなかなかきている人物のようで興味深い「トイ・モンスター――マテルの巨大で邪悪な世界」という本が紹介しているらしいので、そのうち手を出してみようかと思った。だって、

「バービーのことを話すライアンは、まるで自分の性行為について語る異常性愛者だった」と、友人のスティーブン・グナスはオッペンハイマー*1に述べている。「顔がやや紅潮し、目が輝いていた」

 やはりヒット商品は情念が生むものなのか?
 で知らなかったんだけど、バービーの製造を受注したのは「日本の業者」だったんだって。ライアンの注文がまた凄い。「乳首はいらない」しかし上手く伝わらず、できあがった人形には乳首がついていた。ライアンは自らやすりで乳首を削り落としたのだとか。

・忘れ去られた暴力の嵐
 1920年アメリカで起きた無政府主義者のテロ事件を振り返り、原理主義テロとの類似点と相違点を考察していてなかなか興味深い。

私たちは危険な時代に生きているが、危険な時代は過去にもあった。そして理性や知識は暴力に勝利したのだ――テロリストの価値観をたたきつぶすのではなく、進歩的な法律や労働組合の創設、賃上げ、市民の権利を制度化してうまく吸収しながら。

 こういうまとめ方はアメリカだなあと思った。

・「八つ子出産」は単純に喜べない
 減胎手術への啓蒙記事。中絶への反対が根強いアメリカならでは(なのか?)

 親にしたら、減胎手術がつらい決断なのはまちがいない。長い間不妊治療に耐えてきた末に、また立ちはだかる大きな壁だ。それでも現実を知っておいてほしい。四つ子の妊娠の場合、赤ちゃんが全員助からない確率が25%もある。だが双子に減らせば、その確率を5%にまで引き下げることができる。未熟児での出生や脳性麻痺のリスクも減らすことができる。

 データとして役に立つことがあるかもしれないから、引用しておく。

・デジタル時代の今こそ万年筆にこだわろう
 ニューズウィークでも万年筆の記事なんて出るんだね、と驚いた。言及されているのはモンブラン、モンテグラッパ、オマス、ティバルディ、ダンヒルなど。世界の万年筆ショップ10選みたいのもあって日本からは書斎館がランクイン。紙の記事もちょろっと出てる。スマイソン(英王室御用達)が1887年に起業したとか、知らなかった。クレインの方が歴史があったんだねえ。

 
 ところで、表紙は麻生総理で、ポンコツ政治なんて見出しなので、日本の政治が大きく取りあげられているのかなと思ったら記事は3ページ(うち写真だけで1ページ)と案外小さかった。中身もありきたりに感じた。
 その他アメリカや東欧の経済記事や「スラムドッグ$ミリオネラ」を見たスラム地区出身のエッセイとか。失業した夫はそれでも家事をやらないとか。中国の出稼ぎ事情(河南省の話。省内に1000ある専門学校は就職できた学生の分しか授業料を受け取れなくなったのだとか。すげえ)や南アフリカから人材流出が止まらないとか。

Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2009年 3/11号 [雑誌]

B001TA3LCE
阪急コミュニケーションズ 2009-03-04
売り上げランキング :

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

*1:「トイ・モンスター」の著者