相住、同棲、ルームシェア

 前エントリに引き続き『古句を観る』(amazon青空文庫)から。

あひさしの傘(からかさ)ゆかし花の雨    淀水

 という句の説明みたいな文章で、

「あひさし」は二人でさすの意、相合傘(あいあいがさ)のことであろう。こういう言葉があるかどうか、『大言海』などにも挙げてはないが、相住(あいずみ)、相客(あいきゃく)等の用例から考えて、当然そう解釈出来る。
 花の雨の中を相合傘で来る人がある。「ゆかし」は「暖簾(のれん)の奥ものゆかし」とか、「御子良子(おこらご)の一もとゆかし」とかいうのと同じで、傘の内の人は誰だか知りたい、という意味である。艶といえば艶なようなものの、少しつき過ぎる嫌(きらい)がある。但(ただし)普通の春雨よりは、花の雨の方がいくらかいいかと思う。

p.77-78

 と書いていて、そこに出てきた相住(あいずみ)という言葉を知らなかったので「ほう」となった。考えてみれば相客って言葉も知らない。まずは相客から片付けるかと辞書を引いた。
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デジタル大辞泉の解説

あい‐きゃく〔あひ‐〕【相客】

1 同じ場所で、たまたまそこに来合わせた客。
2 旅館などで、他の客と相部屋になること。また、その客どうし。

大辞林 第三版の解説
あいきゃく【相客】
① 宿屋で、同室に泊まり合わせた客。
② 人の家などを訪ねたとき、たまたまそこに居合わせた客。

精選版 日本国語大辞典の解説
あい‐きゃく あひ‥【相客】

〘名〙
① 同時に、同じ所に来合わせた客。
※虎明本狂言・飛越(室町末‐近世初)「今日すきにまいるが、あいきゃくは某次第と申てまいった」
② (宿屋などで)二人以上の客が、同室に泊まり合わせること。また、その客。
浮世草子・御前義経記(1700)二「相客(アヒキャク)なきを幸に」

 なるほど。
 で、相住。見た瞬間、「これってルームシェアの漢語だか和語だか? あのカタカナ語、漢字で書けるのか?」となんか感心した。で、早速辞書を引いたところ、精選版日本国語大辞典には

あい‐ずみ あひ‥【相住】

〘名〙 同じ家にいっしょに住むこと。また、その人。同居。あいやどり。あいずまい。
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「あひずみにも、忍びやかに心よくものし給ふ御方なれば」

 とあり、大辞林は収録がなく、大辞泉

デジタル大辞泉の解説
あい‐ずみ〔あひ‐〕【相住み】

同居すること。また、同居人。
「―にも、忍びやかに心よくものし給ふ御方なれば」〈源・玉鬘〉

 と出ていた。で、広辞苑だと、

同居。同棲。

 とあって、例文は上記二辞書と同じだった。
 同棲が入ってくるとルームシェアとは意味がズレて来そうな気配もあるなと思い、ルームシェアも引いてみた。
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知恵蔵の解説
ルームシェア
1つの住宅に他人同士が同居する住まい方。欧米では、ルームメイト募集に見られるように一般的である。日本では、住宅の各部屋に鍵や個別のシャワーがないため、これまで普及しなかった。しかし、ミングル居住のような特別の住宅が登場し、また近年は、インターネットの発達で募集が容易になり増加。一方、1人暮らしの高齢者が仲間と暮らす形態も注目されている。これは、老後の安心感を高め、住居費を安くするだけでなく、1人暮らしの孤独死という悲惨なケースの防止にもつながる。
(小林秀樹 千葉大学教授 / 2007年)

デジタル大辞泉の解説
ルーム‐シェア(room share)

家族や恋人ではない人と、同じ住居の中で生活をすること。個室を専有し、台所・食堂・浴室・便所などは共用とするのが一般的。マンション・アパートの場合はフラットシェア、一戸建てはハウスシェアともいう。

大辞林 第三版の解説
ルームシェア【room share】
他人同士が、共同で一つの部屋を借り、分け合って住むこと。フラット-シェア。

 やはり国語辞書はどちらも「他人」という関係性に着目している。大辞泉のほうは動詞っぽく、大辞林は名詞っぽく説明してるの、ちょっと面白い。あと大辞林のほうが語釈は短いけど「共同で一つの部屋を借り」ってところに目配りを感じる。

 この定義からするとルームシェアしててそっから交際ってなるとルームシェアを解消して同棲するようになりました(引っ越しはしていません)みたいな言い方も可能っぽいな。

 そんなわけで相住みて「これってルームシェアのことじゃね?」って思ったおれの直感はいささか外れていたようだ。

 ところで、同棲も検索してみた
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前提が「男女」で語釈書かれているのは、これから段々変わっていきそうだと思ったのだった。そして、『とっさの日本語便利帳の解説』の解説にも「へえ」となった。

同棲
日本では男女が一緒に住むこと。中国では「同居」。「同棲」は人以外の動物の場合。

 これ、日本語で使われだしたときにも絶対悪意で選ばれてる単語だったでしょ感が凄い。


古句を観る (岩波文庫)

 読み終わったので感想書いた。
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