『諸橋轍次博士と大漢和辞典』展

『諸橋轍次博士と大漢和辞典』展に行ってきた。会場は表参道・新潟館ネスパスの三階。今日は最終日。諸橋轍次に関してはウィキペディアの記事をどうぞ。大漢和辞典に関してもウィキペディアの記事でどうぞ。
 大学で日本文学を学んだ人間にあるまじきことらしいのだが、俺はこの大漢和辞典をこれまで引いたことがなかったが、名前はかねがねうかがっていて、なんとなく凄いんだろうと思っていた。というのも、柳瀬尚紀が「フィネガンズ・ウェイク」翻訳の苦労話をするときに必ず引き合いに出されるのが、諸橋大漢和で、柳瀬先生曰く、この字書なければ、翻訳は無理だったと*1
 そんな前情報もあり、せっかくだからと軽い気持ちで出かけてみた。入場料無料で会場も小さかったこともあって、メインは新聞の拡大コピーみたいな記事とドキュメント番組の放映とこぢんまりしたものだった。
 それでもまったく知らなかっただけに色々と楽しめた。例えば本名の他に字(あざな)と号を持っていたこと。本名は皇族や尊敬できる人にしか使わず、それ以外にはもっぱら号を使ったとか。九十九まで生きた長寿の人だった(亡くなったのは1982年)とか。大漢和を編纂する過程で右目を失明していたとか。
 展示会中央には初版の大漢和も並び、戦災をくぐり抜けた第一巻などが重々しく鎮座ましましていた。それにしても最初は一巻本の企画だったとは。企画が生まれたのは1925年、最終的に全十五巻で完結したのは諸橋轍次死後の2000年。実に七十五年という気の遠くなるような編纂期間だ。っていうか、人一人の一生がすっぽり入る。感心する以外何ができようか。
 一人で字書を書いちゃった白川静先生にも感心する以外ないと思ったものだけれども、この人も凄いなあ。そして二人とも長生きだ。漢字の勉強は長寿を呼び込むなんて健康法、どっかのテレビ局言ってみる勇気はないかしら? なんてどうでもいいことを考えつつ、記事を読む。
 で、真ん中の方のテーブルに大漢和クイズとかいうカードが置いてあって、「読めますか?」って感じの奴だったんだけど、せっかくだからやるかと、キャイキャイ予想したり分からないと言ってみたりしながら遊んでいたら、展示場の人がぼそりと「あーやかましい」と言ったのが聞こえてきちゃって、参った。いや無料スペースですし、うるさかったなら申し訳ないんですけど、漢字クイズのカードなんて、本来キャイキャイ言って遊ぶものなのではないのかと。まあなんだ、諸橋先生の著書を売るわけでもなく、完全に商売っ気なしの企画っぽかったので、文句を言う筋ではないんだけどさ。
 ということで後味こそ微妙だったものの、なかなか楽しい展示会であった。将来機会があれば、ミーハー心で諸橋轍次記念館も覗いてみたい。

 

*1:うろ覚えなので自信はないが、これに類することは言っていたはず