スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ10 『運命』から『夜明けのブレス』まで


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第10回。
前回。
gkmond.hatenadiary.jp
 『チェッカーズの音楽とその時代』を入手するまでに眺めた限りでは、ツイッターなどの感想でいちばん言及されていた曲は『運命(SADAME)』だった。で、見た限りじゃみなさん奥歯にものが挟まったような言い方だったので、何が書いてあるんだろうと思っていたのだけど、現物読んでみて「なるほど~」ってなった。すごいキラーフレーズが入っていた。「チェッカーズらしさがすぽっと抜けている」である。引用したいところが長すぎて、本文の半分近くになってしまうので自粛するけれども、なんか目茶苦茶言ってないか? という感じがした。読み解く鍵は最後にあった。

言わば、解散という「運命」への前奏曲。大好きだったチェッカーズが、80年代に閉じ込められていく。

 正直、一読何を言っているのかわからなくて困ったのだけど、これは90年代のチェッカーズチェッカーズらしさを失っていた抜け殻だったとかそういうことが言いたいんじゃなくて「ぼくの大好きだったチェッカーズ」が「80年代に閉じ込められていく=変わってしまった」という一ファンの悲鳴ではないかというところに落ち着いた。そう思って眺めると、この曲に対する感情的には全否定したいような姿勢もまあわかる。ただまあ、そう考えてじゃあ大好きだったチェッカーズのイメージってどんな? と、逆算してみると「久留米のヤンキーが東京の大人にGSパロディーのアイドルに仕立てられて無国籍オールディーズを一生懸命歌う」って初期のイメージだったんじゃないかという気がして、「私は当時、チェッカーズの熱烈なファンではなかった」ってまえがきの文章との整合性どうすんのよ、って話になるんだけど。熱烈じゃない割に、イメージからの逸脱に不寛容すぎるでしょ(笑)
 まったく、曲の中身について言及してないのも、「こんなのはチェッカーズの曲じゃないやい」ってふうに見えて仕方ない。
 ↑これ、難癖かなあと思いつつ書いたんだけど、本文読みなおすと、

GSのようなキュートな見てくれで、キャロルのようなロックンロールを奏でる7人組。それがチェッカーズだった。

 ってあるから、まあ、それほど外れてもいなそうだ。自分は本書の感想(こちら)で、チェッカーズは「本書のアプローチが包括しきれていないくらい凄い。」と書いたんだけど、上のような流れで「それがチェッカーズだった」と言われても全然ピンとくるところがない。後発でチェッカーズを知ったので、「昔はバリバリのアイドルだった」はむしろ「意外な一面」にしかならなかったからねえ。むしろ、つねに変わり続けた(その象徴がたぶんフミヤの髪型なんだけど)ダイナミズムにこそチェッカーズの核があったんじゃないかという気が、この本を読んでいてするようにもなった。いやだって、『運命』を取り込めない「チェッカーズらしさ」なんてあり得ないでしょ。イントロから燃えるし、コーラスワークも全盛期入ってきたって感じの格好良さだし。『素直にI'm Sorry』が90年代Jポップを予見したって言うなら、この曲の歌詞(たとえばこちら)なんて、今世紀初頭のセカイ系を予見してるって言ってもいいくらいの出来だし。
 ただ、このくだりを見て、「そういうことだったのかも」と思ったのは、当時のメンバーによる全曲紹介みたいな奴のコメントで『OOPS!』は前向きに倒れた失敗作でファンがついてこなかったみたいなことが複数回言われてて、どんなアルバムだろうとおっかなびっくり買ったわけ、こんなやつ。


 で、再生したら、これが当時の自分的に(正確に言えば今に至るまで)最高のアルバムで、なんでこれが失敗作扱いなのかずっとわからなかったんだけど、もしかすると、ファンのイメージするチェッカーズの自由さを超えちゃってたってことだったのかもしれない(いや、たしかリーダーはミックスが甘かったとかそういうことを言っていたので、複合的に見たうえで失敗って言ってるんだろうけど)と、スージーさんの『運命』評見て思ったのだった。あー、あと、帯の素敵なキャッチコピーにして、本書の中心コンセプト、

今、あえて言おう。チェッカーズは日本最後のロックンロール・バンドだった。

 と、『運命』の相性が悪すぎたってのも、この曲の評価につながったのかもしれない。コンセプト的には、『運命』ないほうがやりやすかったのかも。

 しかしおれはここで、読書メモ1で書いたことをもう一度言いたいのだ。スージーさん、昔も今も、(ひょっとすると本人が自覚してる以上に)チェッカーズ好きだから、「好きでもないのに仕事で書いた」とか言わないであげて。
 どんだけ好きかって証明のために、1で引用した箇所再引用するよ。

さて。先に白状すれば、私は当時、チェッカーズの強烈なファンではなかった。チェッカーズよりも、ビートルズレッド・ツェッペリンはっぴいえんどなどの方を好んで聴いている若者だった。

 でも、そうでなければ見えて来なかったものもあると思っている。ユウジのベースの向こう側にポール・マッカートニーを、マサハルのメロディの向こう側に、ロイ・オービソンを、そしてフミヤのボーカルの向こう側に沢田研二を見据えることが出来たのは、リスナーとして色んな回り道をして来たからという自負もある。

 冒頭の「強烈なファンじゃなかった」が目立つわけだけど、最後とよく読んでみてほしい。スージーさんが自負してるとこ。これは「すべてはチェッカーズ理解するためだった」って言ってるわけでしょ。なかなか言わないでしょ、こんなこと。凄いファンだって。でもって、おれの印象では「にもかかわらず総てを把握できているわけではないほどチェッカーズはお化けバンドだった」ってのがくっつくんだけどさ。

 万が一、『運命』を聴いたことのない人が、この駄文を読んでいる場合に備えて、最後に『運命』の動画も貼っておく(っていうか、自分が見たいだけだったりする)。

youtu.be

出典はこれ。

 で、次が『夜明けのブレス』。対抗馬が上で紹介した『OOPS』に入ってる『100Vのペンギン』だったと聞いたことがある。そっちをシングルで出していたら二曲連続でコケていたんだろうか(自分としては『100Vのペンギン』がシングルになってたら喜んだと思うんだけど)。そして意外にも、マサハル作曲なのに、スージーさんは苦手だと仰有る。「けれん味の無さが、作曲家マサハルの魅力と知りつつ、さすがにシンプル過ぎないか」「歌詞について、『結婚祝賀曲』狙いとしても、内容がスウィート過ぎる」。
 うん、わかるよ。これ、男が褒めるには照れくさい曲だよね……だから、妙な方向にコメントも迷走してる感じがあるんだけど、できればここは「1オクターブだけで作られたメロディと個別性のかけらもない歌詞はすぐそこまで来ていたカラオケブームの到来を予見していたのかも知れない」くらいのことを言ってお茶を濁しておいて欲しかった。数字を見る限り、ここまででメンバーオリジナル曲最大のヒット作なんだし。いや、だからこそケチをつけたいファン心理もわかるけど。
 自分はこの曲出たとき中学生で、クラスメートたちと行った生涯初カラオケでほかの人がこれを歌ってるのを聴き、「売れてるんだなあ」と思った記憶がある。歌詞もメロディーも覚えやすくキーも楽だから誰でも歌える曲って印象だった。何度も聴いているうちに飽きたなと思った時期もあったけど、最近は結構好き。
 で、スージーさんの評を読んでいて、なんとなく思っただけなんだけど、この曲のカップリング『Space Lovers』っていうんだけど、(記憶違いでなければ)チェッカーズの曲で唯一宇宙を舞台にしたSFソングで七万光年の距離を超えて四千時間かけて地球の恋人に会いに行くって話なのね(香取慎吾チェッカーズの好きな曲に挙げていたこともある)。これさ、もしかすると、『夜明けのブレス』があんまりにもド直球だったから、フミヤもちょっと照れくさくて、その反動で書いた歌詞だったりするんじゃないかなあ。当時聴いた時はひたすら「英語のアナウンスがわからない、どこ喋ってるんだ」って、一生懸命歌詞カード睨んでた記憶がある。ちょっと面白い曲なんだ。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ1 タイトルのメッセージを妄想してみた - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ2 『ギザギザ』から『星屑』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ3 『ジュリア』と『スキャンダル』あるいは「キラキラ」と「チャラチャラ」 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ4 『不良少年』から『HEART OF RAINBOW』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ5『神様ヘルプ!』から第1期まとめまで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ6 NANA I Love you, SAYONARA - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ7『WANDERER』から『ONE NIGHT GIGOLO』(あるいはみなさんのおかげです)まで。 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ8『Jim & Janeの伝説』から『Room』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ9 『Cherie』と『Friends and Dream』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ10 『運命』から『夜明けのブレス』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ11 『さよならをもう一度』と『Love'91』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ12 『ミセスマーメイド』から『今夜の涙は最高』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ13最終回 - U´Å`U

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スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ9 『Cherie』と『Friends and Dream』


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第9回。
前回。
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さて、スージーさんのお気に入り『Cherie』に到達したぞ。まずはコメントを見てみようじゃないか。

「第2期チェッカーズ」屈指の名曲。再評価が強く待たれる曲。さらに言えば、この曲の再評価のために、この本を書いているふしすらあるほどの。

 凄いストレートに好きなの伝わってきて、ここまでのほとんどの曲の扱いとのギャップにびっくりした(笑)節の最後じゃこうも言ってる。

「第2期チェッカーズ」屈指の名曲は、時代を超えた名曲である。なぜならこの曲は、そもそも89年の段階で、89年という時代を超えていたのだから。

 書いてるときにテンション高すぎたのか「『素直に~』が90年代Jポップを予見した」的な切り口すら用意せず、こう言いきっているので、なんでそうなるのかはわからないが、この曲があったから2019年にチェッカーズシングル総まくり本なんてものが出版されたとすれば、そりゃ名曲に違いない。
ということで、とりあえずどんな曲か聴いてくれ。
www.youtube.com

出典はこれ。

 個人的にはこの曲のキモってイントロのサックスじゃないかなあと。清々しい青空が広がる感じがいつもする。あとあんまり自信がないんだけども、イントロにコーラスの声(チュルッチュ、チュルッチュチュチュ~みたいなの)が入ってるシングルって初めてだったような、いや、『あの娘とスキャンダル』の冒頭があるのはわかってるんだけど、そうじゃなくて、音として人の声を使うみたいなやつ。マサハル作曲のホップステップジャンプのジャンプにあたるというスージーさんの指摘に乗っ取ると、『Wanderer』(オ、オ、オ、オー)『Jim&Jane』(We used to dream to be like Jim & Jane~)、そしてこの曲と、イントロで人の声を使うやり方が洗練されてきたと言えるかもしれない。マサハル作曲、イントロに人の声の最高作は『ミセスマーメイド』だと思うので、ジャンプは二段階ある気はするけども。イントロ一発目の吹きぬける感じのまま、のんびりした気分になれるいい曲なのは間違いない。
 リアルタイムで聴いたとき? じつは「聴きたいのはこれじゃねええええ!」って思いました。シングル集め出したときもこれは『Best』っていうので済ませたので、カップリング曲は一昨年配信で買った。何でかってそりゃまえの『Room』が好きすぎたせいでしょう。この曲は当時の自分的には丸くなりすぎてる気がした。今は感じ方が少し違うところもある。なにせ生で聴いてしまったという事情もある。カウントダウンにこの曲歌ったのって、スージーさんの記事の影響もあったんじゃないかと思ってたりする。
 で、おれが『Cherie』に感じたことをスージーさんは次の『Friends and Dream』に感じたようで、

個人的には、何と言っても《Cherie》という、そびえたつピークの後であり、当時としても印象が薄かった。

 自分なんか逆に「今回は結構いい曲」と思った口。途中の語りとか好きだったなあ。このあたりから歌番組が激減してきて、ぼんやりしててもチェッカーズの曲が耳に入ってくるって頻度はだいぶ下がったような印象がある。なおスージーさんは「来たるべき解散を食い止めるためにフミヤがしかけたメッセージソング」にも聞こえると仰有っていて、これはこれで面白い解釈だなあと思った。高杢を励ますために書いた曲だって話もあったような気がするけど、それはそれとして。憶測が許されるなら、解散とかじゃなくて売上が鈍ってる状況(前作『Cherie』はオリコン最高位5位でこの時点でのチェッカーズ史上最低の到達ランクだったらしいし)に対してみんなを鼓舞する意図があったとかも読めそう。「大丈夫、ボロボロでもまだ飛べる」って。あ、でもそうすると「思い出の半分はいつまでもあいつらさ」のあいつらって誰ってことになるか。あいつらがメンバーだったら「We can still fly」が「これからも一致団結」って意味にならんかも。うーん、これがメンバーを鼓舞する曲だったら、そのあと『運命』への路線変更(スージーさん曰く)への必然性もありそうだったんだけど、ちょい強引かも。危機感はあったんじゃないかなあって今から考えると思うんだけどね。当時読んだインタビューでフミヤがベテランになってきたから後続のスーパーグループ(おれの読み取りでは光GENJIだったので、当時は意外に思ったのである。アイドル時代がリアルタイムじゃないと同じカテゴリーに見えない)が出てきても心配はしてないみたいなことを言ってた記憶あるんだけど、あれも危機感の裏返しだったのかもしれないし。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

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万歳三唱のはじまり

『日本歴史故事物語(下)』という本がずっと本棚の肥やしになっていて、スペース空けるために処分しようかと思い立ち、念のため目次を眺めてみたところ、「万歳三唱のはじまり」という小見出しが目に留まったので読んでみた。だってそんなもんのはじまりなんてわかってると思わないじゃないか。
 この本によればはじめて万歳三唱がなされたのは1889年2月11日だという。その日は帝国憲法発布の日だったそうな。で、明治天皇が代々木練兵場で観兵式を行うことになっていた。

 そこで、東京第一高等中学校(後の旧制一高)では、生徒一同、宮城前で、お迎えしようではないかということになった。しかし、ただ並んでお迎えするのではもの足りない。外国には、フランス語なら「Vive la France!」とか英語なら「Save the King」とかみんなが叫ぶことばがあるが、日本にはない。
 大学の先生たちが集まって、天皇にたいしてあげる歓呼の声はないものかとよりより協議したあげく、経済学の和田垣謙三(わだがきけんぞう)博士が提議した「万歳 万歳 万々歳」に衆議が一決した。
 しかし、生徒がいっせいに大声を出して天皇の馬車の馬がおどろいてはいかんと宮内省にあらかじめ連絡した。
 当日、馬車が二重橋をでた。高らかに万歳の声があがった。第一声である。ところが馬がおどろいて棒立ちになり前足をバタバタやりだした。第二声は小さい声になり、第三声「万々歳」は唱えられなかった。かくて万歳だけが唱和の声として残ったという。

 新しかったのね、万歳って。この話の出典が書いてないからよくわからないのだけども、フランス、イギリスの例を引いて考え出したのに、出来上がったものが何を称えているのかわからなくてロシア語の「ウラー」(意味はよく知りません)みたいな感じになっているの、すげえわが国っぽいと思ってしまった。比較的トップダウンだったのか(ぼんやり読むと「生徒一同」が「お迎えしよう」って言いだしたように読めなくもないけど、うしろとの兼ね合い見ると先生たち主導で学生動員したんだろうね)ってのは、まあそんなもんかもしれんって感じで、やってみたらうまくいかなくて尻すぼみってのはありがちな話に思える。
 ともあれ、起原がわかってるなんてかなり意外。この本を処分するのは読んでからにしようと考えなおしたのだった。


日本歴史故事物語 下 (河出文庫)

スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ8『Jim & Janeの伝説』から『Room』まで


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第8回。
前回。
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『Jim&Janeの伝説』ってタイトルは初めて聞いたとき、「何それ格好いい」って思ったんだよねえ。スージーさん的には生まれて初めて買ったシングルCDだったそうな。「今は亡き短冊形のメディア」って説明するなら88年の話なんだし、ついでにアダプターの話もすると、当時の文化っぽくないかとか思ったり。ハメたよね、外側に黒いゴムみたいの。数年後にはそのまま聴けるようになっていた気がするけど。マサハル作曲の曲なので、割としっかりメロディーの解説している。歌詞まで褒めてる。のだけど、

歌詞の内容も、バイクの事故で亡くなった男の彼女を、事故の現場に連れて行くというもので、これは「♪仲間がバイクで死んだのさ」という、デビュー曲《ギザギザハードの子守唄》への回帰でもある。

 それはいくらなんでも強引じゃないか?(笑)このまえの段落で「この曲であえて久留米のヤンキー時代に舞い戻る」なんて言ってるけど、この曲って普通に歌詞読んだら海外の話じゃない? それともJimもJaneもあだ名? ってか、歌詞に触れるんだったら『Prologue』って前日譚の曲に触ってもよさそうなもんなのに。あれがくっついて完成する世界っしょ、これ。あ、でも、なんとなくアメリカの話だと思ってたのはカップリング曲で「小さく見えるぜアメリカが」って言ってるせいかもしれないな。

次が『素直にI'm Sorry』。スージーさんは苦手な曲らしい。その割に、

この《素直にI'm Sorry》は、上記「カノン進行」メガヒットを中心とした、来たる「Jポップ」ブームを予見した曲だったとも言えるし、この曲の延長線上に、フミヤ93年のメガヒット(202万枚!)である《TRUE LOVE》(この曲の進行も「カノン進行」的)があるとも考えるのだ。

と、先駆性を評価してもいる。チェッカーズとの付き合い方は難しいな。

 個人的な思い出を語ると、この曲は初めてリアルタイムでチェッカーズと認識して聴いたチェッカーズの曲。小学校の六年生だった。そのまえの週くらいに友達から面白いから見ろと熱烈に勧められて歌番組なるものを初めて見た(たぶんトップテン)。で、暇つぶしにはいいくらいの感想だったので翌週も見ていて、この曲の紹介とともにチェッカーズが出てきたと記憶している。名前に聞き覚えはあったけど、随分昔(小学生の数年は中年の十数年くらいに相当する感覚なのだ)の人というイメージだったので、最初の印象は「まだいたんだ」だったのを覚えている。見たの初めてなのにまだいたんだもないものだ。で、フミヤは髪の毛を後ろで束ねていた。「うっとうしいので束ねました」とかそんなコメントをしていた。そのあっけらかんとした口調が最初の引っかかりだったかもしれない。「あ、それ、いいかも」と思った。全然髪長くなかったのに。なんかね、自由な大人って感じがしたんだよねえ。
 で、演奏が始まった。大人だから大人しい曲歌うんだなあ、くらいの感想しかなく、3位とか2位とかになんでこれが入るんだろう? と思った。最後そろってお辞儀するところとかも、ほかの若手ミュージシャンやアイドルと違った大人のたたずまいに見えた。社会現象だった当時を知らなかったおれには、チェッカーズは最初から大人として現れたのだった。踊らないし。この曲は数週間ランクに入っていたと思うけど、あんまりいい印象は持っていなかった。むしろランクから消えて、ちょっとまえのVTR化したときに、サビに入っていく寸前のタンタラッタ、タンタラッタ、タンタラッタンタンが耳に心地良いなあと思うようになった感じ。やべえ、この人たち格好いいって思ったのは、次の『Room』だった。平成最初のシングルだったとかは言われなきゃ気づかなかったけども。『Room』は好きだった。スージーさんも気に入っているのか、結構詳しく楽曲分析をやっている。
 けどさあ……と、好きな曲だけに思ってしまう。この曲ってそりゃメロディーもアレンジも歌詞もいいけど、いちばんキャッチーだったのって、Aメロから繰り返されるフミヤのマイクスタンド裁き(いや、裁いてるってほどでもないか、こう、ちょっとした間のところでマイクスタンドを少し傾けて、顔はマイクと逆を向くみたいな)じゃなかった? おれ、あの動きが大好きだったんだけど。ちょっとしたしぐさなのに、ムッチャ格好いいわ、何これ! って感じでさあ。うん、思い出してきた。あの動きにやられたんだ。12歳のぼく。
 って、確認すべく当時の映像探したら、夜ヒット出てきて、私のイメージする動きをやっていないんですけど、もしかして上に書いたことは記憶の捏造? そんな馬鹿な……。でもないとは言えないんだよなあ。歌詞の解釈も30年近く間違ってたしなあ。いや、この曲、歌詞も好きだわあってずっと思っていたんだけどね、一昨年くらいかなあ歌詞カード見直したら、「時が過ぎるのが怖い 君が遠く離れてく いつか涙は薄れてゆくのか」ってところの最後が文脈的にたぶん反語(いや薄れない)だということに気がついてしまって。それまでずっと「時が過ぎるのが怖い」→「君(の思い出)が遠く離れてく」→「いつか涙は薄れてゆくのか(この悲しみも消えてしまうのだろう)」というふうに解釈していたんだよねえ、Heart Break Roomなんてただの音だった(Roomしかわからなかった)から意味のつながり考えなかった。当時のぼくは「ああ、それはとても哀しいなあ」と思って、しみじみいい曲だと思っていたんだが、最初から反語に気がついていたら、あんなに気に入ったかどうか。勘違いにもいい勘違いがあるのだ、たぶん。
 ところで、当時から歌詞について一箇所引っ掛かっているところがあって、靴を履きかけてふと振り向いたときにあの日の薔薇が咲いてるってところ。引き払うときに窓辺の花瓶は置いていったの? 水入れたまま? でもって、なんで薔薇は復活したの? いつもここを聴くとET的なイメージが浮かぶんだけど、なんのメタファーなんだろう。花が色褪せて二度と愛は戻らないことを知ったっていうんだから、その花が咲いてるなら復縁におわせてるってことなのかなあ。謎である。ともあれ、これ以降、チェッカーズは自分にとって特別なバンドになったのだった。ここまで来るのに、こんなかかるとは思わなかった。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

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スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ7『WANDERER』から『ONE NIGHT GIGOLO』(あるいはみなさんのおかげです)まで。


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第7回。
前回。
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『WANDERER』はマサハルが作曲した初のシングル曲で、本書はこのくだりで『NANA』以降のシングル曲の作曲担当比率を挙げている。

・ナオユキ(藤井尚之):8曲(42%)
・マサハル(鶴久政治):7曲(37%)
・ユウジ(大土井裕二):2曲(11%)
トオル(武内亨):1曲(5%)
・「THE CHECKERS」名義:1曲(5%)

 トオル作曲のシングル曲って『ONE NIGHT GIGOLO』だけだったのか! と軽く驚いた。
 スージーさんのご意見はこう。

 比率的にはナオユキとマサハルが2トップとなっていて、微差でナオユキの方が高くなるが、作品の質に話を移すと個人的には、マサハル作品の方に軍配を上げたい。

 ただし、『WANDERER』は「まだ習作レベルというか、のちのマサハル作品に感じられる、異常にポップな輝きを感じることは出来ない。曲として、何だかギクシャクしている感じがするのだ。」と仰有っているが、このギクシャクした感じってのはAメロからBメロへ行くところのことだろうか、それだとすげえわかるわかるって思うんだけど。あれ? ってなるよね。「正月に曲出ししたときに保留にしといた曲が何曲かあって、そのうち2曲のいいとこだけを合体させた曲」というマサハル本人の弁が引用されていて、「ああ、そうだったのか」と納得した。

何よりタイトル『WANDERER』の意味がわからなかったという記憶がある。

 これもすげえわかる。最初wanderとwonderごっちゃにして不思議な人だと思ってた。正直、十代で聴いたときはあんまりいい印象を持っていなかった(オリコンの1位を取った最後の曲なんだけど、ほかの曲のほうが格好良くない? という印象が強かった)んだけども、2017-2018年カウントダウンで生で聴いたらよかった。
www.youtube.com

これの25:54くらいからのやつ。

で、話は『Blue Rain』へ。スージーさんは「チェッカーズお得意のロッカバラード」と書いてるんだけど、自分の印象はいつ聴いても「演歌」だったりする。声が遠いって印象もあったなあ。今はシングル全部列べて流しているから、『Blue Rain』もちょっと毛色が違うアクセントみたいな聴き方になって、それなりに気持ちよく聴けるんだけど、これをシングルにした狙いはよくわからなかったなあ。脱アイドル路線の暴走だろうか。

 そして、本書の全コメントのなかで最高傑作のウルトラCになっているのが次の『ONE NIGHT GIGOLO』。

 印象度だけで言えば、《I Love you, SAYONARA》と並んで、「第2期チェッカーズ」を代表する曲だと思う。

 って言ってるのに、曲の説明そっちのけで、この曲をネタにした『とんねるずのみなさんのおかげです』のコントの解説を丁寧にやって、

 チェッカーズとんねるずのリズム感がぴったりと合っている。そのリズム感が、同じく当時全盛期を迎えていた新宿河田町のフジテレビからの電波に乗って、日本中に響いている。そして、日本中の若者がそれを見て、笑い、歌い、乗っている。もちろん私も、その中のひとりだった。
 この曲のイントロから見えてくるのは、そんな1988年の風景である。

 ってしめちゃうんだもん。
 本書の感想でも書いたんだけど、このスタンスじゃなきゃこの曲の十全な理解はできないので、この一見職場放棄的な展開は愚直でけれんのないアプローチだと思う。ただ、どうせ曲から離れるなら、サビのところでボーカル三人がさりげなーくステップ揃えてるとことかも言及してほしかった。そういえば、『涙のリクエスト』にしても『哀しくてジェラシー』にしても歌ってるときの振りには全然言及がなかったな。『ジェラシー』の「おっとことおんなはすーれーちがーいー」のとこのあれとか、おれの同級生とかでも覚えてるくらいの印象があったんだけど。
 ちなみに私、トップテンだかベストテンだかで初めてチェッカーズの実物を見た際、歌前のトークで「フミヤの髪型変遷史」みたいのが流れ、その最後にこの曲のサビの最後「♪孤独を消してくれ~~」ってとこだけ見て、「何この曲格好いい」と一目惚れをしたのでした。シングル買い出したときに「あの曲これかなあ」(当時はyoutubeがなかったのよ)と、再生しては外すこと数度、とうとう辿り着いたときには「まさかみなさんのあれだったとは」と少々複雑な気持ちになりました。大好きな曲です、はい。上に貼ったカウントダウンで生で聴いたときには感激しました。そして、会場の皆様のこの曲大好きさ爆発した一糸乱れぬ合いの手なんかにも感激しました。2018-2019もサックスの音が鳴り響いたところで「来たあああー」となったんだけど、そこに憲さんあらわれて、まさかのコント再現となり、「これが生で見られる日が来るとは想像してなかった」と思いつつも、「え、歌わないの?」と少ししょんぼりしたのもまだまだ記憶に新しいままです。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

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スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ6 NANA I Love you, SAYONARA


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第6回。
前回。
gkmond.hatenadiary.jp
第二期に入った。『NANA』に対するスージーさんの印象ってかなり悪いのね。今までの照れ隠しかおいおいみたいなツッコミを入れる余地が残ってない感じ。アイドル時代の第一期がよっぽど好きだったんだろうなあとか思った。引用してる歌詞も助詞間違えてるし……。

チェック柄のコスチュームを脱ぎ捨てた7人は、夢の世界から西麻布という現実に降り立ち、芸能人と飲んだくれ、戯れる男たちとなったのである。

 あの歌詞でそこまで想像できるのかとびっくりした。リアルタイムだとこんなふうに見えるものだったんだろうか。いや実を言うと「メンバーの喜びが、ビンビンと伝わってくる曲である」ってところから、印象が違うんだよね、音源初めて聴いたとき、喜びより気迫を感じた身としては。高校生くらいのときは「脱アイドルへの気迫」みたいに解釈してたけども、今考えれば「コケたら終わり」な背水の陣で出てきた音だったように思う。でもってサビの「未来に感じ濡れてくれ」とか「過去を引き裂け」とかも、『True Love』がファンへのメッセージなら、やっぱりファンへのメッセージだったんじゃないのかね。「思い出へ流れてゆく涙はおれのこの手じゃふけない」けども、どうか新しい自分たちについてきてほしいっていう。
 あら、今反射的に思いついただけだったのに、これだとNANA=スージーさんみたいに路線変更を残念に思っていたファンじゃんね。やっぱりもうちょっと『NANA』には優しい眼差しを注いであげた方がよかったんじゃなかろうか。そんなこと言うぼくはもちろん『NANA』好きです。いちばんよかったのはチェッカーズじゃなくなるけど2017-2018のカウントダウンライブのときの演奏。前奏のジャーン、ジャッジャーン、ジャッジャーン、チャーン、で会場揃って「ハッ!」のあと、一瞬謎の無音。その一瞬で戸惑いがさざなみのように広がったのを待っての演奏再開っていう流れがあって楽しかった。

追記:ここも映像紹介すればいいじゃんね、と気がついたので2017-2018カウントダウンの公式動画貼る(公式があるってありがたい)。
www.youtube.com

これの29:50くらいから。一瞬、シンとなってるの、わかります? 演奏再開のところで、音拾われてないと思うんだけど、客席から軽く笑いが聞こえて(ひとりとかふたりとかじゃなくて)、なんつーか、ファンとフミヤの高度なコミュニケーション見せられた感じがとてもよかった。こんな短い間を空けるだけでちょっとひねったぞ(笑)みたいなのを双方感じてるのにただただ感心したのだった。そして、ゲットダウン(っていうとどっかで耳にしたのでこの呼び名で。そうじゃないとなんて言ったらいいのかわからないので)したまま床が沈んで消えるって曲の締め方も非常によかったというか、予想してなかったので「おおおー」ってなった。

追記終わり。

 で、『NANA』を下げた反動か次の『I Love you,SAYONARA』は珍しくストレートに褒められている。『ジュリア』『POPSTAR』に続いて3曲目かな。世界観がいいのだそうな。

 チェッカーズとそのスタッフのクレバーさはこのあたりにある。
 つまり、《NANA》と《I Love you,SAYONARA》の、このような世界観の違いを、(おそらく)意識的・戦略的に打ち出していることのバランスを取るクレバーさ。マンネリズムを回避する、このようなクレバーさがあって初めて、「解散まで本格的な低迷期を迎えなかった希有なバンド」になれたのだと思う。
 作曲は、当時のチェッカーズにおける音楽的キーパーソンだったユウジ。やたらとキャッチーなサビも含め、コンテンポラリーでかつ「売れる音」になっている。

 どうせなら、イントロのサックスの気持ちよさにも言及してほしかった。最初のあれと、「♪きーらいと言ーうしーかー」のまえのジャジャジャジャージャジャジャがいいと思うんだけど。まあ、「含め」だから全部入ってるってことでしょうけど。英語版もあるんだよね。歌詞覚えてないけど。そっちもなんかいい具合だった。好きな演奏はフミヤがソロになったあとのNHKホールかどっかのライブ。ユウジがゲストで来てたやつ。なんかとても楽しそうに歌ってた。WHITE PARTYのアンコールの『ジュリアに傷心』もそうだけど、ちょっと「懐かしの」って文脈入ると楽しそうに歌うんだよねえ、フミヤって。

追記:ところでスージーさんは『I Love you, SAYONARA』を褒めるにあたって、

登場する女性も、「バージンのように怯え」る「NANA」ちゃんに対して、こちらは、自分の意志で男性と別れ、新宿の「ネオンへ消え」ていく凜とした女性という感じがして、好感が持てる。

と仰有っているんだけども、歌詞から考えて別れを切り出したのは男じゃないかという気がするんだよね。だから「嫌いと言うしかなかったよ Baby 馬鹿だね男って」なんじゃないのかなあ。
 で、これはさっき思いついたことなんだけども、『I Love you, SAYONARA』には傷だらけの結婚指輪が出てくる。ということはたぶん、歌詞世界の男女のサヨナラの意味は離婚である。そして、『NANA』には「薬指に今も残る跡」ってのが出てくる。これも恐らく指輪のあとである。ということは、この二曲、主人公の男を別人と考えれば、ヒロインは同一人物であってもいいはずだ。生活苦か何かから男から「I love you, SAYONARA」と言われた女性がほかの男に言い寄られるけど、まだ元の旦那を忘れきれず云々っていう態度に言い寄った男が「知らない頃のおまえにジェラシー」みたいなストーリー。
 リリースの順番と時間軸が逆だというのはわかっているんだけど、『Jim & Janeの伝説』が出たあとで『Prologue』が語られたみたいに、『NANA』の詩を書いたあとフミヤの頭に「NANAと前男にどんな物語があったんだろう」ってな疑問から前日譚が生まれたみたいなことはなかったのかなあと(おれが知らないだけですでに語られている話、もしくは語られていないのだから、そんなつながりはないのどっちかが正解なのは重々承知ですが、思いついたらなんか妙に説得力があったので書き留めておきます)
あと、もし、上記のNANAがファンへのメッセージって解釈がありなら、売上減を見たあとで作られたI Love you,SAYONARAというタイトルには去りゆくファンへの惜別のメッセージが込められていたという解釈も成り立ちそうな気がふとした。すべて妄想でしょうけど。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ1 タイトルのメッセージを妄想してみた - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ2 『ギザギザ』から『星屑』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ3 『ジュリア』と『スキャンダル』あるいは「キラキラ」と「チャラチャラ」 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ4 『不良少年』から『HEART OF RAINBOW』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ5『神様ヘルプ!』から第1期まとめまで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ6 NANA I Love you, SAYONARA - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ7『WANDERER』から『ONE NIGHT GIGOLO』(あるいはみなさんのおかげです)まで。 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ8『Jim & Janeの伝説』から『Room』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ9 『Cherie』と『Friends and Dream』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ10 『運命』から『夜明けのブレス』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ11 『さよならをもう一度』と『Love'91』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ12 『ミセスマーメイド』から『今夜の涙は最高』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ13最終回 - U´Å`U

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