スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ11 『さよならをもう一度』と『Love'91』


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第11回。
前回。
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 さて『さよならをもう一度』に到達。スージーさんのコメントはどうじゃろ。

 売上枚数は14万枚に逆戻り。さらには最高位が7位。これはデビュー曲の《ギザギザハートの子守唄》の8位以来という低水準。低水準とは言え、ベストテンに入っているのだから、立派と言えば立派なのだが――いや、やはり凄く立派だろう。皮肉っぽい言い方をすれば。
 というのは、この曲、私にはいよいよチェッカーズらしさの薄っぺらい、普通の歌謡曲に聞こえたからである。これで7位というのは立派立派。「何があってもチェッカーズのシングルを買い続けるぞ」という、根強いファンの存在を感じずにはいられない。
(中略)
とにかくこの曲は、私には、いわゆる歌謡曲に聴こえた。チェッカーズらしさを感じることが出来なかったのだ。

 自分はこの曲嫌いじゃないので、このコメントにはいささかぎょっとした。地味でメリハリはないけど、全体いい雰囲気で進んで終わると思うんだよねえ。個人的にはB'zの『もう一度キスしたかった』とかと似た系統の曲ではないかと思っている(どっちか聴くともう片方を思い出すのだ)。チェカーズらしさという点についても、スージーさんがたびたび使うもんだから、そういやチェッカーズらしさとはなんぞやと考えるようになったんだけど、昔も今もメンバーの7人(厳密に言えばサポートふたり入る)が音と声を作ってることくらいのゆっるーいイメージしかない(しかし、本書で繰り返される再結成待望論みたいのを見るに、このゆっるーいイメージでさえスージーさんとは意見が合わない気がする。クロベエいないんだから再結成なんて問題外の外でしょと個人的には思うから、本書で再結成の話題が出て来ると割にイラッとするのだった)ので「らしさがない」と言われてもピンとこない。この曲で言えば、サビにかぶさる「♪kiss lonely night」「♪kiss throught the nihgt」とか、間奏のサックスとか、どう聴いてもチェッカーズ藤井フミヤチェッカーズになっているという指摘なら多少頷けるんだけど)。
 ピンと来ない曲でも何か書かなきゃいけない以上、なぜピンと来ないかを語りましたってことなんだとは思うんですけどね。で、思うのがシングル曲のA面だけ全曲紹介割り当てスペースすべて同じっていうコンセプトがここでは苦しかったんじゃなかろうか。もし、カップリング(あるいはB面)も紹介できるなら、『Hello』を中心にしてお茶を濁すことだってできたわけ(その場合はフミヤのあのラップどうなの? みたいなことが書かれそうだけど)で。ライブで聴いたほうがいい曲ってファンのコメントが載っていたのだけど、そうなんだあという印象。見たことのある映像だと動きなさすぎて、音源のがいいかなって思ってた。

 そして『Love'91』。わたくし、これが最初に買ったチェッカーズのシングルでございます。本書の感想にこう書いた。

個人的な話をすると、この『Love '91』 は初めて買ったチェッカーズのシングルで、たまに「なぜに最初気に入った曲が『Room』(1989)だったのに、シングル買うまでにこんなに間が空いたのか」と考えて答えが出ていなかったのだけど、今回この本読んで謎が一つ解けた気がした。露出が減ったので、飢えが出たのだ、たぶん。

 たぶんそういうことだったのだと思う。この曲に関してはテレビで見た記憶がまったくない(から、去年くらいこれを歌っているチェッカーズの映像を見つけたときはびっくりした)。正確に言うと、『運命』からこの曲まででは『夜明けのブレス』しか当時テレビで見た記憶はない。露出の量と売上がきっちり連動していたんじゃないかと思われる。『夜明けのブレス』については楽曲がよかったこと以上にフミヤの結婚が報じられたのが売上アップにつながったんだろうなあとか、この本の売上データ見て思った。
 それはさておき、そんなわけで当時、前情報ゼロで発作的にCDを買って聴いた私、わりと困ったのだった(笑)聴きたい曲のイメージは『Room』みたいなやつ、出てきたのはスッカスカの音で青空広がるようなイメージ。すげえギャップがあった。こ、これが大人の音楽かって思ったのと、フミヤの声が綺麗って思ったのはよく覚えてる。あとね、歌詞に出てくる風物がいちいちわからなかったよね。アンテナの低い中学生だったから。「立ち止まる一枚のウォーホル」の「ウォーホル」がわからないから「水色のマリリン・モンロー」もわからない。「プライスカード」もわからないから「ゼロを数えながら」の意味もわからない。「盗んでほしいと無茶を言う」はわかった。で、場面が見えてないから「まわりを見渡し突然キスをした、これでもう君のものさ」も誰が誰に(誰にと思ったんだ)キスをしたのかもわからないという。大人の世界は遠かった。
 逆にカップリングの『チャイナタウン』は不思議なことに前奏から親しみが持てたんだけど、今なんでか考えてみたところ、中国っぽい雰囲気を出そうとした前奏の頭のところが、ファミコン版『ドラゴンボール』のBGM(といっていいのかどうかわからないんだけど、ステージが始まるまえのところで鳴っていた曲)と似てたからだった。
 当時は「弾き返された」感だけが残ったこのシングル、その後感想が変化して、よくこれシングルにしたなあって思うようになった。冒頭の高杢の低音から入って最後まで綺麗にまとまってるし、いい曲だと思っているんだけど、売れる売れないで言ったら当時の売れ線からは遠く離れてたように思う。いや、それを言ったら、この曲が売れ線になるような時代はあったのか? と書いて、なんかのインタビューで「もう何していいかわからなくてとりあえず作った」みたいなことを読んだ記憶が蘇った。スージーさん曰くこの曲は曲調がドゥワップでリズムはロッカバラードでチェッカーズの原点みたいなものだと仰有っているが、たしかにそうなのかもしれない。というか、そうなんだろうと思いつつ、よく考えると、原点に戻るとこの曲になるバンドが社会現象になるくらい爆発的にヒットして10年間第一線にいたの、結構衝撃的じゃない? ええと、この曲知らない人、ちょっとここから試聴できるので、聴いてみてほしい。

 売れたバンドが成熟してここに至ったんじゃなく、これが原点だった(これは正しい捉え方)バンドがあれだけ売れたと考えると、チェッカーズを把握するのにその音楽性というアプローチはどれくらい有効なんだろうか。曲の善し悪し(いいんですよ、もちろんいいんです)はともかく、それですっきりと魅力の正体がわかったりするんだろうかと今更ながら疑問になってきた。ことに自分などは、この曲を聴いて首を傾げ、よくわからんと思ったのに、そのあと『I Have a Dream』出るよってテレビCM見て、お店に走っただけに、音楽性云々とは違う魅力を感じていたのではないかと今から考えると思うんだよねえ。とはいえ、たとえば音楽性なら色々話すことも出てくるだろうけど、「藤井郁弥の声がいい」とかだとそこで終わっちゃうから、音楽性ってアプローチも必要ではあると思う。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

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