スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ8『Jim & Janeの伝説』から『Room』まで


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第8回。
前回。
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『Jim&Janeの伝説』ってタイトルは初めて聞いたとき、「何それ格好いい」って思ったんだよねえ。スージーさん的には生まれて初めて買ったシングルCDだったそうな。「今は亡き短冊形のメディア」って説明するなら88年の話なんだし、ついでにアダプターの話もすると、当時の文化っぽくないかとか思ったり。ハメたよね、外側に黒いゴムみたいの。数年後にはそのまま聴けるようになっていた気がするけど。マサハル作曲の曲なので、割としっかりメロディーの解説している。歌詞まで褒めてる。のだけど、

歌詞の内容も、バイクの事故で亡くなった男の彼女を、事故の現場に連れて行くというもので、これは「♪仲間がバイクで死んだのさ」という、デビュー曲《ギザギザハードの子守唄》への回帰でもある。

 それはいくらなんでも強引じゃないか?(笑)このまえの段落で「この曲であえて久留米のヤンキー時代に舞い戻る」なんて言ってるけど、この曲って普通に歌詞読んだら海外の話じゃない? それともJimもJaneもあだ名? ってか、歌詞に触れるんだったら『Prologue』って前日譚の曲に触ってもよさそうなもんなのに。あれがくっついて完成する世界っしょ、これ。あ、でも、なんとなくアメリカの話だと思ってたのはカップリング曲で「小さく見えるぜアメリカが」って言ってるせいかもしれないな。

次が『素直にI'm Sorry』。スージーさんは苦手な曲らしい。その割に、

この《素直にI'm Sorry》は、上記「カノン進行」メガヒットを中心とした、来たる「Jポップ」ブームを予見した曲だったとも言えるし、この曲の延長線上に、フミヤ93年のメガヒット(202万枚!)である《TRUE LOVE》(この曲の進行も「カノン進行」的)があるとも考えるのだ。

と、先駆性を評価してもいる。チェッカーズとの付き合い方は難しいな。

 個人的な思い出を語ると、この曲は初めてリアルタイムでチェッカーズと認識して聴いたチェッカーズの曲。小学校の六年生だった。そのまえの週くらいに友達から面白いから見ろと熱烈に勧められて歌番組なるものを初めて見た(たぶんトップテン)。で、暇つぶしにはいいくらいの感想だったので翌週も見ていて、この曲の紹介とともにチェッカーズが出てきたと記憶している。名前に聞き覚えはあったけど、随分昔(小学生の数年は中年の十数年くらいに相当する感覚なのだ)の人というイメージだったので、最初の印象は「まだいたんだ」だったのを覚えている。見たの初めてなのにまだいたんだもないものだ。で、フミヤは髪の毛を後ろで束ねていた。「うっとうしいので束ねました」とかそんなコメントをしていた。そのあっけらかんとした口調が最初の引っかかりだったかもしれない。「あ、それ、いいかも」と思った。全然髪長くなかったのに。なんかね、自由な大人って感じがしたんだよねえ。
 で、演奏が始まった。大人だから大人しい曲歌うんだなあ、くらいの感想しかなく、3位とか2位とかになんでこれが入るんだろう? と思った。最後そろってお辞儀するところとかも、ほかの若手ミュージシャンやアイドルと違った大人のたたずまいに見えた。社会現象だった当時を知らなかったおれには、チェッカーズは最初から大人として現れたのだった。踊らないし。この曲は数週間ランクに入っていたと思うけど、あんまりいい印象は持っていなかった。むしろランクから消えて、ちょっとまえのVTR化したときに、サビに入っていく寸前のタンタラッタ、タンタラッタ、タンタラッタンタンが耳に心地良いなあと思うようになった感じ。やべえ、この人たち格好いいって思ったのは、次の『Room』だった。平成最初のシングルだったとかは言われなきゃ気づかなかったけども。『Room』は好きだった。スージーさんも気に入っているのか、結構詳しく楽曲分析をやっている。
 けどさあ……と、好きな曲だけに思ってしまう。この曲ってそりゃメロディーもアレンジも歌詞もいいけど、いちばんキャッチーだったのって、Aメロから繰り返されるフミヤのマイクスタンド裁き(いや、裁いてるってほどでもないか、こう、ちょっとした間のところでマイクスタンドを少し傾けて、顔はマイクと逆を向くみたいな)じゃなかった? おれ、あの動きが大好きだったんだけど。ちょっとしたしぐさなのに、ムッチャ格好いいわ、何これ! って感じでさあ。うん、思い出してきた。あの動きにやられたんだ。12歳のぼく。
 って、確認すべく当時の映像探したら、夜ヒット出てきて、私のイメージする動きをやっていないんですけど、もしかして上に書いたことは記憶の捏造? そんな馬鹿な……。でもないとは言えないんだよなあ。歌詞の解釈も30年近く間違ってたしなあ。いや、この曲、歌詞も好きだわあってずっと思っていたんだけどね、一昨年くらいかなあ歌詞カード見直したら、「時が過ぎるのが怖い 君が遠く離れてく いつか涙は薄れてゆくのか」ってところの最後が文脈的にたぶん反語(いや薄れない)だということに気がついてしまって。それまでずっと「時が過ぎるのが怖い」→「君(の思い出)が遠く離れてく」→「いつか涙は薄れてゆくのか(この悲しみも消えてしまうのだろう)」というふうに解釈していたんだよねえ、Heart Break Roomなんてただの音だった(Roomしかわからなかった)から意味のつながり考えなかった。当時のぼくは「ああ、それはとても哀しいなあ」と思って、しみじみいい曲だと思っていたんだが、最初から反語に気がついていたら、あんなに気に入ったかどうか。勘違いにもいい勘違いがあるのだ、たぶん。
 ところで、当時から歌詞について一箇所引っ掛かっているところがあって、靴を履きかけてふと振り向いたときにあの日の薔薇が咲いてるってところ。引き払うときに窓辺の花瓶は置いていったの? 水入れたまま? でもって、なんで薔薇は復活したの? いつもここを聴くとET的なイメージが浮かぶんだけど、なんのメタファーなんだろう。花が色褪せて二度と愛は戻らないことを知ったっていうんだから、その花が咲いてるなら復縁におわせてるってことなのかなあ。謎である。ともあれ、これ以降、チェッカーズは自分にとって特別なバンドになったのだった。ここまで来るのに、こんなかかるとは思わなかった。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

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