スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ10 『運命』から『夜明けのブレス』まで


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第10回。
前回。
gkmond.hatenadiary.jp
 『チェッカーズの音楽とその時代』を入手するまでに眺めた限りでは、ツイッターなどの感想でいちばん言及されていた曲は『運命(SADAME)』だった。で、見た限りじゃみなさん奥歯にものが挟まったような言い方だったので、何が書いてあるんだろうと思っていたのだけど、現物読んでみて「なるほど~」ってなった。すごいキラーフレーズが入っていた。「チェッカーズらしさがすぽっと抜けている」である。引用したいところが長すぎて、本文の半分近くになってしまうので自粛するけれども、なんか目茶苦茶言ってないか? という感じがした。読み解く鍵は最後にあった。

言わば、解散という「運命」への前奏曲。大好きだったチェッカーズが、80年代に閉じ込められていく。

 正直、一読何を言っているのかわからなくて困ったのだけど、これは90年代のチェッカーズチェッカーズらしさを失っていた抜け殻だったとかそういうことが言いたいんじゃなくて「ぼくの大好きだったチェッカーズ」が「80年代に閉じ込められていく=変わってしまった」という一ファンの悲鳴ではないかというところに落ち着いた。そう思って眺めると、この曲に対する感情的には全否定したいような姿勢もまあわかる。ただまあ、そう考えてじゃあ大好きだったチェッカーズのイメージってどんな? と、逆算してみると「久留米のヤンキーが東京の大人にGSパロディーのアイドルに仕立てられて無国籍オールディーズを一生懸命歌う」って初期のイメージだったんじゃないかという気がして、「私は当時、チェッカーズの熱烈なファンではなかった」ってまえがきの文章との整合性どうすんのよ、って話になるんだけど。熱烈じゃない割に、イメージからの逸脱に不寛容すぎるでしょ(笑)
 まったく、曲の中身について言及してないのも、「こんなのはチェッカーズの曲じゃないやい」ってふうに見えて仕方ない。
 ↑これ、難癖かなあと思いつつ書いたんだけど、本文読みなおすと、

GSのようなキュートな見てくれで、キャロルのようなロックンロールを奏でる7人組。それがチェッカーズだった。

 ってあるから、まあ、それほど外れてもいなそうだ。自分は本書の感想(こちら)で、チェッカーズは「本書のアプローチが包括しきれていないくらい凄い。」と書いたんだけど、上のような流れで「それがチェッカーズだった」と言われても全然ピンとくるところがない。後発でチェッカーズを知ったので、「昔はバリバリのアイドルだった」はむしろ「意外な一面」にしかならなかったからねえ。むしろ、つねに変わり続けた(その象徴がたぶんフミヤの髪型なんだけど)ダイナミズムにこそチェッカーズの核があったんじゃないかという気が、この本を読んでいてするようにもなった。いやだって、『運命』を取り込めない「チェッカーズらしさ」なんてあり得ないでしょ。イントロから燃えるし、コーラスワークも全盛期入ってきたって感じの格好良さだし。『素直にI'm Sorry』が90年代Jポップを予見したって言うなら、この曲の歌詞(たとえばこちら)なんて、今世紀初頭のセカイ系を予見してるって言ってもいいくらいの出来だし。
 ただ、このくだりを見て、「そういうことだったのかも」と思ったのは、当時のメンバーによる全曲紹介みたいな奴のコメントで『OOPS!』は前向きに倒れた失敗作でファンがついてこなかったみたいなことが複数回言われてて、どんなアルバムだろうとおっかなびっくり買ったわけ、こんなやつ。


 で、再生したら、これが当時の自分的に(正確に言えば今に至るまで)最高のアルバムで、なんでこれが失敗作扱いなのかずっとわからなかったんだけど、もしかすると、ファンのイメージするチェッカーズの自由さを超えちゃってたってことだったのかもしれない(いや、たしかリーダーはミックスが甘かったとかそういうことを言っていたので、複合的に見たうえで失敗って言ってるんだろうけど)と、スージーさんの『運命』評見て思ったのだった。あー、あと、帯の素敵なキャッチコピーにして、本書の中心コンセプト、

今、あえて言おう。チェッカーズは日本最後のロックンロール・バンドだった。

 と、『運命』の相性が悪すぎたってのも、この曲の評価につながったのかもしれない。コンセプト的には、『運命』ないほうがやりやすかったのかも。

 しかしおれはここで、読書メモ1で書いたことをもう一度言いたいのだ。スージーさん、昔も今も、(ひょっとすると本人が自覚してる以上に)チェッカーズ好きだから、「好きでもないのに仕事で書いた」とか言わないであげて。
 どんだけ好きかって証明のために、1で引用した箇所再引用するよ。

さて。先に白状すれば、私は当時、チェッカーズの強烈なファンではなかった。チェッカーズよりも、ビートルズレッド・ツェッペリンはっぴいえんどなどの方を好んで聴いている若者だった。

 でも、そうでなければ見えて来なかったものもあると思っている。ユウジのベースの向こう側にポール・マッカートニーを、マサハルのメロディの向こう側に、ロイ・オービソンを、そしてフミヤのボーカルの向こう側に沢田研二を見据えることが出来たのは、リスナーとして色んな回り道をして来たからという自負もある。

 冒頭の「強烈なファンじゃなかった」が目立つわけだけど、最後とよく読んでみてほしい。スージーさんが自負してるとこ。これは「すべてはチェッカーズ理解するためだった」って言ってるわけでしょ。なかなか言わないでしょ、こんなこと。凄いファンだって。でもって、おれの印象では「にもかかわらず総てを把握できているわけではないほどチェッカーズはお化けバンドだった」ってのがくっつくんだけどさ。

 万が一、『運命』を聴いたことのない人が、この駄文を読んでいる場合に備えて、最後に『運命』の動画も貼っておく(っていうか、自分が見たいだけだったりする)。

youtu.be

出典はこれ。

 で、次が『夜明けのブレス』。対抗馬が上で紹介した『OOPS』に入ってる『100Vのペンギン』だったと聞いたことがある。そっちをシングルで出していたら二曲連続でコケていたんだろうか(自分としては『100Vのペンギン』がシングルになってたら喜んだと思うんだけど)。そして意外にも、マサハル作曲なのに、スージーさんは苦手だと仰有る。「けれん味の無さが、作曲家マサハルの魅力と知りつつ、さすがにシンプル過ぎないか」「歌詞について、『結婚祝賀曲』狙いとしても、内容がスウィート過ぎる」。
 うん、わかるよ。これ、男が褒めるには照れくさい曲だよね……だから、妙な方向にコメントも迷走してる感じがあるんだけど、できればここは「1オクターブだけで作られたメロディと個別性のかけらもない歌詞はすぐそこまで来ていたカラオケブームの到来を予見していたのかも知れない」くらいのことを言ってお茶を濁しておいて欲しかった。数字を見る限り、ここまででメンバーオリジナル曲最大のヒット作なんだし。いや、だからこそケチをつけたいファン心理もわかるけど。
 自分はこの曲出たとき中学生で、クラスメートたちと行った生涯初カラオケでほかの人がこれを歌ってるのを聴き、「売れてるんだなあ」と思った記憶がある。歌詞もメロディーも覚えやすくキーも楽だから誰でも歌える曲って印象だった。何度も聴いているうちに飽きたなと思った時期もあったけど、最近は結構好き。
 で、スージーさんの評を読んでいて、なんとなく思っただけなんだけど、この曲のカップリング『Space Lovers』っていうんだけど、(記憶違いでなければ)チェッカーズの曲で唯一宇宙を舞台にしたSFソングで七万光年の距離を超えて四千時間かけて地球の恋人に会いに行くって話なのね(香取慎吾チェッカーズの好きな曲に挙げていたこともある)。これさ、もしかすると、『夜明けのブレス』があんまりにもド直球だったから、フミヤもちょっと照れくさくて、その反動で書いた歌詞だったりするんじゃないかなあ。当時聴いた時はひたすら「英語のアナウンスがわからない、どこ喋ってるんだ」って、一生懸命歌詞カード睨んでた記憶がある。ちょっと面白い曲なんだ。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ1 タイトルのメッセージを妄想してみた - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ2 『ギザギザ』から『星屑』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ3 『ジュリア』と『スキャンダル』あるいは「キラキラ」と「チャラチャラ」 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ4 『不良少年』から『HEART OF RAINBOW』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ5『神様ヘルプ!』から第1期まとめまで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ6 NANA I Love you, SAYONARA - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ7『WANDERER』から『ONE NIGHT GIGOLO』(あるいはみなさんのおかげです)まで。 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ8『Jim & Janeの伝説』から『Room』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ9 『Cherie』と『Friends and Dream』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ10 『運命』から『夜明けのブレス』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ11 『さよならをもう一度』と『Love'91』 - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ12 『ミセスマーメイド』から『今夜の涙は最高』まで - U´Å`U
スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ13最終回 - U´Å`U

関連商品:


チェッカーズの音楽とその時代


チェッカーズ・オールシングルズ・スペシャルコレクション(UHQCD)