スージー鈴木『チェッカーズの音楽とその時代』読書メモ2 『ギザギザ』から『星屑』まで


チェッカーズの音楽とその時代
の読書メモ第2回。

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そんなわけで本編。デビュー曲『ギザギザハートの子守唄』のレビューではスージーさんとチェッカーズの出会いが語られていた。1983年秋、著者は高校二年生。授業で一緒の女子から「これ、知ってる? チェッカーズっていうねん。めっちゃ可愛いねん!」と切り抜きらしき写真を見せられる。

極彩色のファッションに身を包んだ少年7人組の写真(「月刊明星」の切り抜きと思われる)。中でも、真ん中で頬笑んでいる少年が、同性・(ほぼ)同年代の目からしても、妙な気分になるくらいに、やたらと可愛い――が、「ハードロック少年」としては、「可愛い」と同調するのは、さすがに、色んな意味ではばかられる。

 で、「なんや、ようわからんなぁ。俺、最近、洋楽しか聴いてへんから、わからんわ」とだけ答えたそうである。で、その次の週ラジオから「新しい、いや新しすぎたからか、なかなか理解できないイントロ」が流れてきた。それがギザギザ。感想は、

これはオシャレなのか、コミックソングなのか――わからない。
そんな理解不能さは、歌に入って、さらに極まる。日本語だ。それも、歌詞がツッパリソングなのだ。「♪仲間がバイクで死んだのさ」とくるから、横浜銀蝿(よこはまぎんばえ)とか、のちの虎舞竜にも通じる。

 パーソナルヒストリー部分はここで終わっている。当時を指折り数えてみると、おれは小学一年生だったので、このデビューの頃ってリアルタイムでは全然知らないのだが、なんか流行り歌的にほかの子が歌ってるのを耳にしていたように思う(多分84年になってからだろうけど)。コミックソング? という第一印象はよくわかる。『7×10』ってソフトで当時のPVを90年代になってから見たけど、やっぱりコミックソングなんじゃない? って印象の出来だったし。最後に「日本のみなさん、こんちわー、チェッカーズ」みたいな声入ってた記憶ある。だからFinalの一曲目でこれが歌われたのは割とびっくりした(解散後のライブ音源CDでもびっくりしたし、のちに動画見てもびっくりした。Final Lapの途中でボーカル三人出て来たところで。こんなにカッケー格好してギザギザハートから始めるの? って*1)。

 それよりも、「へえ、そうだったんだ!」って思ったのは、「真ん中で頬笑んでいる少年が、同性・(ほぼ)同年代の目からしても、妙な気分になるくらいに、やたらと可愛い」ってところ。これは年齢近くないとわかんない感覚なんだろうなあ。初めて見たときにはすでに立派な大人っていうふうにしか見えなかったからか、昔の動画、例えばGoツアーとかを最近見て、セクシーっていうのは理解できるようになったんだけど、可愛いだけはどうしても感じられないんだよねえ。

 で、スージーさん、このチェッカーズの出会いエピソードで「1983年の段階で、そこから10年以上前のハードロックをありがたがっているような、コンサバティブな少年には、この新しい文化を理解するのに、もう少し時間が必要だった」って書いてるんだけど、これってチェッカーズが新しかったってことを印象づけるための文飾だよね、たぶん。少なくともラジオでギザギザハート聴いた段階で、「うお、これ、いい!」ってなってたはず。じゃないと、涙のリクエスト(この曲の「無国籍オールディーズ」というコンセプトこそがチェッカーズに火をつけた起爆剤だったというのが著者の考え)の、

私は当時この曲を聴いて、少々がっかりしたことを憶えている。《ギザギザハートの子守唄》に詰め込まれていた、それこそギザギザした違和感のようなものが薄いのだ。

 なんて感想が出てくるわけないもん。彼らが「日本全国の小中高の女の子の胸をかきむしらせる感じ」を打ち出すまえにすでに期待値あがっていたからがっかりするわけで。(ちなみに、涙のリクエストも流行り歌的に誰かが歌っているのを聞いていた気がする。サビだけ。)
 でもって、思わずニヤニヤしてしまうのが、その次の哀しくてジェラシーの感想だ。

この曲は、歌謡曲っぽさが過ぎると言おうか、《涙のリクエスト》にあるキュートさに欠けるとも言える。「♪男と女はすれ違い」のような、湿った歌詞世界は当時のチェッカーズに似つかわしいとは、言いにくい。

 いや、このあと、「怒濤の4分音符連打は、一度聴いたら忘れることができない」って褒めてるんだけど、がっかりしたって言った涙を引き合いに「前曲にあったキュートさが欠けている」って涙のリクエストも好きだったんじゃないの? と茶々を入れたくなる感じですよね(笑)湿った歌詞世界って言うけど、メロディーのせいなのか、湿ってると思ったことはないなあ。(これもリアルタイムは流行り歌的に以下略でサビだけ知ってた)
この曲はこのライブバージョンが好き。
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たしかこのソフトに入っていたと思う。


 四曲目の星屑のステージでもこのパターンが繰り返されるの、すげえ好き。同曲は「周到に仕組まれた曲作りによって、チェッカーズの新しい側面の提示に成功し、60万枚の売上枚数を叩き出したという曲なのである」と持ちあげてからの~

 ただし、1点だけケチをつければ、その分、商売っぽさが前面に出ているということだ。

 その結果、TBSのテレビドラマ「うちの子にかぎって…」の主題歌タイアップも決まるのだが、商売っぽさの代償として、《ギザギザハートの子守唄》《涙のリクエスト》《哀しくてジェラシー》という初期3部作にあった、福岡久留米のヤンキーによる八方破れのパワーのようなものが失われている感じがするのだ。

 ヤンキーじゃなくて不良……はいいとして、絶対、星屑のステージも好きですよね、スージーさん。
 なんか著者に茶々入れるばかりのエントリーになってしまったのだが、東京ドーム公演段階でもファンの性別構成比9:1で女子多数とかだったチェッカーズの初期に転んだ男性ファンなんて隠れキリシタンみたいな気分だったんじゃないかと思うんだよねえ。その癖が残ってる感じして、非常になんつーか、共感できるんだ、この語り口。先輩! って感じで。うーん、楽しい。

追記:読書メモ完結。全十三回。以下目次

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*1:7×10じゃフミヤだってデビュー当時の思い出として「参ったなあ、これ歌うのかなあ」って思ったって言ってたんだよ