海外

鈴木智子訳『100年前のニューヨーク』

いま20世紀初頭ってか、1910年代のニューヨークを舞台にした短編集を読んでいる関係で、当時の資料がほしいなあと思っていたところで本書を発見し、タイトルだけで買ってみた。著者名の見当たらない不思議な本で、各ページに当時の風景写真が紹介文付きで掲…

グリン・カー堀内瑛司訳『黒い壁の秘密』

アバークロンビー・リューカーは『リチャード三世』の公演を終え、湖水地方の小村へ赴いた。風光明媚なこの地に近年ユースホステルができ、山や岩場へ出かける人たちに利用されているという。数か月前クライミング中に命を落とした若者の話を聞いているさな…

エイモス・チュツオーラ土屋哲訳『やし酒飲み』

本書の存在を知ったのは、保坂和志のエッセイで、そのときは引用を読んでちょっと面白そうと思いつつスルー、少しして河出の世界文学全集に収録されているのを見たけれど、値段が高かったのでこれもスルー、で、それから数年岩波文庫に入ったのを見ても、ま…

D・M・ディヴァイン 野中千恵子訳『兄の殺人者』

兄貴がいつも通り夜中近くに電話掛けてきて、「今すぐ事務所に来てくれ」とか言って、電話切りやがったから、しぶしぶ霧の中事務所まで行ったら、こんな時間だってのに誰だか出て行く気配とかして妙だなあと思いながら兄貴のところへ行くと、なんだよ、兄貴…

マーク・ミラー作デイブ・ジョンソン/キリアン・プランケット画高木亮訳 スーパーマン:レッドサン

スーパーマン(Wikipedia)は、名前とあらすじこそ知っているもののちゃんと読んだことがなかった。んで、本書を見かけたので読んでみることにした。 本書のあらすじを書く前に、トム・デサントの序文を紹介したい。 ミッキーマウスを軽んじるつもりは決して…

ジェイムズ・エルロイ二宮磬訳ビッグ・ノーウェア(上下)

LA4部作第2弾。今年の初めにもう忘れてしまった何らかのきっかけで『ブラック・ダリア(amazon)』を読んだら、予想と違って面白かったので、続きを読もうと思ったら、いつでも手に入るだろうと油断していたんだが、なんと『ブラック・ダリア』以外は品切…

Jedediah Berry 『The Manual of Detection』

今年のハメット賞受賞作。海外ミステリ通信で紹介されていたあらすじが面白そうだったので読んだ。作者のファーストネームが、俺にはさっぱり読めなかったのだけど、同じスペルの人が「ジェデッドアイア」と表記されていたのを見つけたので、そう読むのが正…

ドン・ウィンズロウ東江一紀訳『犬の力』

メキシコの麻薬撲滅に取り憑かれたDEAの捜査官アート・ケラー。叔父が築くラテンアメリカの麻薬カルテルの後継バレーラ兄弟。高級娼婦への道を歩む美貌の不良学生ノーラに、やがて無慈悲な殺し屋となるヘルズ・キッチン育ちの若者カラン。彼らが好むと好まざ…

トマス・H・クック村松潔訳『沼地の記憶』

人に勧められて読んだ作品。面白かった。 語り手のジャック・ブランチは高校教師で、旧家の御曹司。舞台は1954年のアメリカ南部、レークランド。ここでジャックは悪について教えていた。語りの時間は現在で、ストーリーは老いて、ニューヨークからの小包を郵…

のぞき見トムとハットトリック項目集

「のぞき見トムとハットトリック」は発売と同時に買って、調べ物に使おうと思っていたのに、これまでほとんど活躍させる機会がなかった。 理由は明らかで収録項目の一覧がないためだった。ということで立項されている全慣用句の一覧を作成してみた。ほとんど…

シオラン 金井祐訳 カイエ 1957‐1972

ここんとこ、諸事情からシオラン(ウィキペディア)の著作に随分目を通していた(読んだというのは憚られる感じだが)。『思想の黄昏』、『実存の誘惑』、『時間への失墜』、『悪しき造物主』、『生誕の災厄』、そして本書。なんでも「バルカンのパスカル」…

ケン・ブルーエン 鈴木恵訳 ロンドン・ブールヴァード

いやあ痺れた痺れた。帯に〈ノワール詩人〉が贈る会心の一作! とあるが誇大広告じゃない。 あらすじはこんな感じ。 3年の刑期を終えて、ミッチェルは出所した。かつてのギャング仲間から荒っぽい仕事を世話される一方、彼はふとしたことから往年の大女優リ…

クリスティアーネ・マルティーニ 小津薫 訳 猫探偵カルーソー

表紙の猫があまりにも凛々しかったので読んだ。著者のクリスティアーネ・マルティーニはブロックフレーテ(なんじゃそりゃ?)の演奏家で古楽器アンサンブルの指揮者、作曲家として活躍しつつ、児童書の執筆なんかもしてきた人らしい(本書著者プロフィール…

ギルバート・モリス 羽田 詩津子訳 猫探偵ジャック&クレオ

タイトルに脱力し、これは読まねばなるまいよと読んだ。 29歳のシングルマザー・ケイトは熱心なクリスチャン兼ワープワで毎日の生活にうんざりしている。そこに弁護士がやってきて、実はあんた、大金持ちのばあさんの遺産相続人だったんだよ。ただし相続には…

Agatha Christie The Mysterious Mr.Quin

凄く面白いから是非読むべしと勧められるままに読んでみたら凄く面白かった。amazonに載っていた日本語版の紹介文はこんな感じ。 窓にうつる幽霊の影が目撃したもの。事件当日にメイドが大空に見た不吉な徴候。カジノのルーレット係が見せた奇怪な振る舞い。…

シャーロック・ホームズの冒険DVD BOOK vol.2

収録作品は海軍条約事件/ボヘミアの醜聞の二本。 ボヘミアの醜聞(テレビ放映の第1話だったそうな)でのジェレミー・ブレッドの変装は来てる。最初変装だとも思わなかった。そして、ホームズがアドラーを初めて目撃するシーンでの、微妙な口の動きが最高だ。

パーシヴァル・ワイルド 越前敏弥訳 検死審問

これより読者諸氏に披露いたすのは,尊敬すべき検死官リー・スローカム閣下による,はじめての検死審問の記録である。コネチカットの平和な小村トーントンにある,女流作家ミセス・ベネットの屋敷で起きた死亡事件の真相とは? 陪審員諸君と同じく,証人たち…

シャーロック・ホームズの冒険vol.1

宝島社のムック付きDVD。ジェレミー・ブレット主演。vol.1では美しき自転車乗りとまだらの紐が収録されている。ムックにはリスニングトレーニングするのを想定したスクリプトがついている。 美しき自転車乗りで、デビッド・バーグ演じるワトソンがポカを…

ジェニファー・リー・キャレル布施由紀子訳『シェイクスピア・シークレット』

内容(「BOOK」データベースより) ロンドン、グローブ座。『ハムレット』の稽古中だった演技監督ケイトの元に、三年前に決別した恩師であるシェイクスピア学者・ロズが突然訪れる。とても重要なものを見つけたから、ケイトの助けがどうしても必要だという。…

O・ヘンリー 小鷹信光 訳 「少年と泥棒」

以前「1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編(感想)」を読んで、「ささやかな感動ストーリーの短篇を書く人」という作者イメージは打ち砕かれ、一作一作何を仕掛けてくるのか、わくわくして待ちかまえられる作家へと俺の中の認識が変わったO・ヘンリーであった…

Wilkie Collins The Moonstone/ウィルキー・コリンズ 中村能三訳 月長石

やっと読み終えた。という感想がまず第一にやってくる古典的名作。邦訳770頁、原書472頁。邦訳版解説によれば連載されたのは1868年(明治維新の頃)。先日読んだ「The Suspicions of MR Whicher: or the Murder at Road Hill House(感想)」の扱うロードヒ…

ティル・バスティアン 石田勇治・星乃治彦・芝野由和 編訳 アウシュヴィッツと〈アウシュヴィッツの嘘〉

以下のエントリで存在を知った本。 ・ホロコーストの基礎知識について - Danas je lep dan. 俺のようなド素人には非常に有益なホロコースト否定論に対するまとめ。紹介してくれたid:Mukkeさんには感謝したい。もともとは1995年のマルコ・ポーロ事件がきっか…

トルーマン・カポーティ佐々田雅子訳『冷血』

『なんだって泣き続けてるんだよ? 誰もあんたをいたぶったりしてねえのに』 超有名作品。「The Suspicions of MR Whicher(感想)」を読んでいるときにふと、「そういえばこれと冷血は似てるのかなあ」と思い、手を出してみた。 原書の発表は1965年。解説に…

スティーヴンスン村上博基訳『宝島』

「新アラビア夜話(感想)」が面白かったので、宝島にも手を出した。昔「ジキル博士とハイド氏」も読んだはずなのでトータル三冊目。 港の宿屋「ベンボウ提督亭」を手助けしていたジム少年は、泊まり客の老水夫から宝の地図を手に入れる。大地主のトリローニ…

O・ヘンリー芹澤恵訳『1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編』

1ドルの価値/賢者の贈り物 他21編 (光文社古典新訳文庫)芹澤 恵 光文社 2007-10-11売り上げランキング : 70741おすすめ平均 Amazonで詳しく見るasin:4334751415 by G-Tools 以前「短編小説のアメリカ 52講(amazon)」という本を読んだことがある。長篇が主流…

W.リップマン  掛川 トミ子  世論(下)

上巻(感想)をむさぼり読み、そのまま下巻へ突入*1。シンボルと化した言葉がどれほど多様な意見をまとめあげてしまうかというようなことの分析から始まり、当時のアメリカの議会政治の欠点と対策などを述べていく。その過程で新聞の果たす役割などへの言及…

W.リップマン 掛川トミ子 訳 世論(上)

1922年刊。amazonのレビューで、「おそらく原文を読んでいるアメリカ人読者よりも、日本語の訳文を読んでいる日本人読者の方がはるかによく理解しているのではないかと思います。」と書かれているのを見て、読んでみようと思った。社会分析の本。著者はは「…

ホルクハイマー /アドルノ 徳永 恂 訳 啓蒙の弁証法

1939年から1944年にかけて書かれた本。原書の出版は1947年。「西洋文明の根本的自己批判として名高い」んだそうな。著者のふたりはともにユダヤ系ドイツ人で、30年代にアメリカに亡命。本書もアメリカで書かれたもの。 解説によれば本書のモチーフは、 さし…

R・D・ウィングフィールド 芹澤恵訳 クリスマスのフロスト

ロンドンから70マイル。ここ田舎町のデントンでは、もうクリスマスだというのに大小様々な難問が持ちあがる。日曜学校からの帰途、突然姿を消した八歳の少女、銀行の玄関を深夜金梃でこじ開けようとする謎の人物…。続発する難事件を前に、不屈の仕事中毒にし…

ビル プロンジーニ, バリー・N. マルツバーグ 内田 昌之 訳 嘲笑う闇夜

「裁くのは誰か?(感想)」の解説(小山正)でこんな風に紹介されていて、興味を持った。 田舎町ブラッドストーンに殺人鬼が徘徊し、三人の女性が惨殺される。しかし、捜査が進むにつれ、どうやら謎の犯人は殺人を犯している時、記憶を全く失っているらしい…